10代読書女子が「無気力・溺愛男子」を好む理由 好まれる男子像は一変、性描写も控えめに

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ケータイ小説文庫の中でも中学生向けの恋愛ものを手がける『ピンクレーベル』では3年ほど前から表紙イラストの人物が「顔あり」になった。

実はそれまでは読者それぞれがキャラクターを思い描けるようにあえて顔の表情を描き込まない「顔なし」イラストにして人物の構図だけを見せていたのである。

しかし、キャラクターがしっかり立つものが人気になってきたため、表情までしっかり描いたほうが読者が求める「甘さ」などがより伝わると判断し、現在の少女マンガ風のイラストが主流となった。

読む前に「感情の高ぶり」が感じられるか

高校生・大学生・新社会人層向けのスターツ出版文庫では、ピンクレーベルほどははっきりと人物の表情を描かないが、帯に大きく「号泣」と入れるなど、読者に訴求する感情がパッと見で伝わるように工夫しているという。

2000年代半ば頃までは作品にキーワードを付けるという文化はあまりなかったが、ある時期から小説サイトに限らず動画サイトでもSNSでも「タグ」を付けるようになった。ユーザーは作品に触れる前からタグを見て「あ、“泣ける”作品なんだ。読もうかな」と判断材料にする。

情報過多な時代ゆえに、アプリ上でも書籍でも、わかりやすくキーワードを提示し、ビジュアルでも訴えることで、読者も自分が読みたい作品を探しやすくなる。

2000年代のケータイ小説は性的・暴力的にわかりやすい“過激さ”が求められたが、読者がクリーン化した2010年代末では出来事の過激さは求められなくなった。代わって「溺愛」「号泣」などの“感情の高ぶり”が読む前からわかりやすく伝わることがかつて以上に求められるようになった、と言えるのかもしれない。

飯田 一史 ライター

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いいだ いちし / Ichishi Iida

1982年青森県むつ市生まれ。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。小説誌、カルチャー誌、ライトノベルの編集者を経てライターとして独立。マンガ家や経営者、出版関係者のインタビューも多数手がける。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)、『読者ハ読ムナ(笑)』(共著、小学館)、『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)。

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