「追い出し部屋」で40代女性が見た異様な光景 社員の「自主退職」を促す会社のズル賢さ

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一方、夫も「夜遅くまで働いてクタクタに疲れて帰っているのに、『全然手伝ってくれない』と愚痴を聞かされる。土日くらいはゆっくり休みたいのに、『私も働いているんだから、休みの日くらい手伝って』と頼まれる。手伝っても、『やり方が悪い』と文句を言われるので、腹が立つ」と不満を漏らす。

このように自分こそ被害者だと互いに思い込んでいるのが、日本の現状だ。被害者意識が強くなると、加害者とみなす相手に対して怒りを覚え、罰を与えたいと願うようになる。そのため、どうしても攻撃的になるのだが、問題は加害者があいまいな場合が少なくないことだ。

第三者に「怒りをぶつける」理由

例えば、定年退職者が低い年金受給額に怒りを募らせても、その矛先をどこに向ければいいのかわからない。現在の年金制度を築いた政府なのか、年金をたっぷりもらっているように見える上の世代の高齢者なのか、わからない。だからこそ、年金事務所の職員に怒りをぶつけるしかないのだろう。

もっとも、加害者が誰なのかがある程度明確でも、その加害者に罰を与えるのは難しい場合が多い。すると、どうなるか。実際に害を及ぼした加害者とはまったく関係のない第三者に対して、自分の受けた被害の憂さ晴らしをするかのように攻撃を加えることがある。

ある有名百貨店に勤務していた40代の女性社員は、職場でいじめを受けた。このいじめは、彼女が退職勧奨を拒否した頃から始まった。売上高が年々減りつつある百貨店業界は、まさに「斜陽産業」と呼ぶのがふさわしく、郊外や地方の店舗の閉鎖の発表も相次いでいる。

彼女の勤務先も例外ではなく、リストラが進められた。表向きは希望退職制度だが、実質的には肩たたきである。給料が高いベテランや能力不足の社員を中心に肩たたきが行われ、割増退職金を手に多くの社員が去っていった。しかし、この女性は独身で、生活に不安があったので、百貨店に残る道を選んだ。

すると、女性上司からの執拗な嫌がらせが始まった。この女性に郵便物が届くと、上司は丁寧に手渡したり机の上に置いたりするのではなく、投げて渡した。コピーを取りに行く際にすれ違うと、ぼそっと「邪魔」と言われた。それでも耐えていたら、しまいには彼女の後ろを通るたびに「死ねばいいのに」と暴言を浴びせられるようになった。

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