トランプの「ウソと狂気」が支持される理由 国民が「自由と平等」より重要視しているもの
「狂気と幻想の物語(ファンタジー)」を縦軸にアメリカへの入植からトランプ政権に至るアメリカの歴史をよみといたのが、カート・アンダーセンの『ファンタジーランド:狂気と幻想のアメリカ500年史(上・下)』(山田美明、山田文訳、東洋経済新報社、2019年)である。
アンダーセンの見方は私のものよりも、ウイットと皮肉に富んでいる。もっとはっきり言えば、アメリカの歴史的な経験に対して否定的だ。「狂気と幻想」という言葉の意味も陰謀論的なインチキさに対する揶揄であり、アメリカはこのいかがわしさを具現化した「ファンタジーランド」であるというのがアンダーセンの主張だ。
アメリカは「夢想家による夢の世界の創造物」(下巻371頁)であり、「山師、起業家、あらゆる種類のペテン師によって作られた」(同373頁)とみる。例えば、ピルグリムファーザーズについては「常軌を逸したカルト集団(上巻44ページ)」と手厳しい。南北戦争で勝利したリンカーンについては「白人と黒人の平等化のために霊が選んだ」という陰謀論が紹介されている(上巻166頁)。
とくにアメリカの歴史の中で何度も台頭する非合理的な動き(魔女狩り、何度か繰り返された「大覚醒」運動の際のいきすぎた熱狂など)には多くのページが割かれている。福音派の強い信念の中、合理的な分析ではなく、進化論の否定や温暖化懐疑論など、疑似科学的な動きが消えない点についても詳細に論じられている。
「普通と異なり」「飛び抜けて優れている」という「アメリカ例外主義」を信じている国(下巻100頁)であり、何もかもショービジネスになるのがアメリカでもある(同38頁)。そこでは各種エンターテインメント産業を包括する「幻想・産業複合体」が強くなる(上巻26章、下巻43章)。
トランプはファンタジーランドの権化
ただ、何といってもトランプ大統領についての記述は圧巻だ。トランプは「生粋のファンタジーランド的存在、ファンタジーランドの権化」(下巻350頁)であり、幻想の多くは「過去の日々のノスタルジー」(同360頁)で多くが構成されている。そして、トランプ時代のファンタジーランドでは「事実のチェックを拒むことが奨励されている」(同368頁)と指摘する。
上巻から続く歴史的な記述の多くは、最後のトランプ氏の説明のための導線のようにすら読める。つまり、過剰な演出や思い込み、いかさま的な誇張であふれるアメリカの歴史の頂点にトランプ大統領がいるという見方である。
ただ、この計800ページを超える上下巻を読みながら、私にはそのうさんくさい部分を含めて、アメリカの何とも人間臭い部分を再発見した気がした。その頂点にトランプ氏がいるのも、あるいは逆に非常に合理的なオバマ氏が前の大統領だったのも、矛盾しながらも前進しようとするアメリカの姿そのものである。
アメリカとは何か――。アメリカ研究者には逃れられないマントラのような質問である。アメリカは理念の国である。そしてその理念はつねに矛盾をはらんでいる。
『ファンタジーランド:狂気と幻想のアメリカ500年史(上・下)』が指摘する幻想と狂気は、アメリカの理念から生まれる矛盾を乗り越えようとする動きであるとすると、何とも人間臭い。それがアメリカなのかもしれない。
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