トランプの「ウソと狂気」が支持される理由

国民が「自由と平等」より重要視しているもの

一方でこの理念は、アメリカがこれまで築いてきた国際協調や、多様性や寛容という平等主義という理念と真っ向から衝突する。過度なポピュリズムの発露やポスト真実的な言動(つまり「ウソ」)で、国際協調や平等主義を打ち消そうとするのは、一種の狂気でもある。

理念を達成するための虚実が入り乱れる「演出」は「夢物語(ファンタジー)」のようだ。

ただ、理念を達成するための「ファンタジー」はトランプ時代の産物にとどまらない。アメリカの政治や社会の根本にずっと生き続けてきたといっても過言ではない。

それはアメリカが建国以前から今まで理念の国でありつづけてきたためだ。理念があるため、政治はいつも「夢」を追うことになる。

当時は非現実的だった自由と平等

17世紀初めにピューリタン(ピルグリムファーザーズ)がイギリスの圧政から決死の覚悟で抜け出してまでつかもうとした自由。18世紀には近代国家としては世界で初めて現出させた共和主義(民主主義)。

1830年代のジャクソン政治が目指した貴族でなく「普通の人々」の政治。さらには1860年代には南北戦争という悲惨な内戦まで引き起こした人種平等。いずれも当時は非現実的な理想だったはずだ。

20世紀の2つの大戦を経た後の時代には、この自由で民主主義で平等な社会を世界に一気に広げようとする国連などの制度を作り上げていったのがアメリカである。アメリカの覇権の時代は「アメリカによる平和(パクス・アメリカーナ)」の時代でもある。

そして、世界に理念を広げる中、自国に対するメスもさらに鋭くなる。南北戦争後、100年近くたっても払拭されない人種間の不平等は1950年代からの公民権運動という形で大きく是正されていく。

ただ、政府主導で平等や多様な社会を作り上げていったのに対し、1980年ごろから一種の反作用として、「政府の圧政からの自由」であるリバタリアン的な新自由主義が台頭していく。その延長線上にあるのが、トランプ支持者の一部に根付いている白人至上主義的な社会病理である。とすると、南北戦争のころと同じ議論に戻っていることに気づく。

アメリカの政治はつねに夢を追ってきた。非現実的な空想や幻想のような理念も、物語が持つ共感という力で現実の政策に反映されてきた。

ただ、非現実であるがゆえに、つねに理念は矛盾をはらむ。平等主義が進む中での個人の自由の確保。個性の尊重と商業主義が生んだ画一性。どちらも矛盾に行き当たる。

もっと平たく今の政治情勢に合わせて例示すれば、人種マイノリティーの法的保護は白人ブルーカラー層の権利の侵害にもなる。どちらかを強調することは、一種の狂気に行きつく。

この矛盾を抱えながら、それを超えて対立する理念を達成しようとしてきたのが、アメリカの政治史である。達成できない「夢」に向かって進むため、つねに未完成だ。

次ページ狂気と幻想がつくり上げた500年史
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