「それにしても初めての出産なので不安だらけで。先輩、いろいろ教えてください〜」
そう言われてうんうんと頷くも、思えば私の最後の出産はかれこれ13年も前のこと。果たしてどれくらい覚えているだろう……切ない気分に浸りかけたとき、Aがおもむろにスマホの画面を見せて尋ねた。
「出産準備品って、こんな感じでいいんでしょうか?」
映し出されていたのは、豆粒のような文字がぎっしりと並んだGoogleスプレッドシートだった。
「少し前に出産した友だちがとても仕事のできる子で。妊娠・出産に必要なグッズを表にして共有してくれたんです」
肌着、おくるみ、ベビーカー、バウンサー、抱っこ紐……シートは、友人の先輩ママ3人の証言をもとに作られていた。
何のために使うものか、いつ頃必要になるのか、どこのメーカーのものが望ましいか。加えて、3人のママが項目ごとに必要度を3段階評価しており、全員がマストで必要だと答えたものなら「9」評価、次いで「8」評価というように、最後の列には必要度が数値化され、表示されている。
「す、すごい」
思わず感嘆の声が漏れた。私が出産したときに参考にした育児情報誌より、はるかに充実の内容。
「これで大丈夫そうですか?」
不安そうに尋ねるAに、逆にこれ以上何を心配することがあるのと尋ね返しそうになる。これだけの情報を誰もが収集し、整理し、検討できる社会だからこそ、リサーチ不足によりハズレくじを引くのはなんとか避けたい、最善の選択をしたい、という思いも湧き上がるんだろう。こうして、便利になると、忙しくなる。
「うちには今、大人が3人いるんですよ」
「産後はしばらく実家に帰省する予定?」
何気なく私が尋ねるとAは首を振る。
「実家は何かと気を使うし、夫にも最初から一緒に子育てに参加してほしいので帰らない予定です。それにうちには今、大人が3人いるんですよ」
なんでも、A夫婦の古くからの友人が、数カ月前からA家に居候を始めたのだという。
「最初は、すぐに新しい家を見つけて出ていくんだろうと思ってたんです。だけどうちで生活するうちに、徐々に自分も赤ちゃんを育てたくなってきたみたいで。夫より早く、自分のことをパパって呼ばせるって息巻いてますね」
呆れたように笑いながらAが言う。
「へえ!Aちゃんは居候が家にいることにストレスはないの?」
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