Netflixがアカデミー4部門を制した深いワケ ネット配信から「劇場公開」される時代に

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2014年10月にフランス・カンヌで開催された世界最大級のテレビ見本市「MIPCOM2014」で行ったNetflixコンテンツ最高責任者のテッド・サランドス氏のキーノート会場は、入りきれないほどの人数のテレビ業界関係者で埋め尽くされていたことを思い出します。最大の関心事は「ネット配信ドラマがエミー賞をどのようにして獲るのか?」。世界共通でテレビ局で放送されるドラマがその対象となっていたわけですから、それまでのテレビ業界の常識を覆す出来事だったのです。

その後、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」シリーズでは合計7回、エミー賞の主要部門を受賞し、早くもエミーの常連組に。配信エリアも日本をはじめ、世界各地に広げ、勢力を拡大させていきました。牽引役となって、テレビ番組市場における勢力図や流通経路も変えていき、Netflixスタジオの存在感を知らしめていったわけです。

『バード・ボックス』はNetflix史上、最多視聴映画作品

ドラマシリーズを世に放ったときと同じく、Netflixは攻め時を知っています。Netflix映画の数は今、勢いに乗って、みるみるうちにラインナップを増やしているところ。2018年12月にNetflix上で公開された、サンドラ・ブロック主演の映画『バード・ボックス』は配信開始から7日間でNetflix映画史上最も多く視聴された映画作品ともいわれています。

2019年に配信開始予定の作品も続々と発表されています。例えば、マシュー・マコノヒーとアン・ハサウェイが共演する『セレニティー:平穏の海』や、ジェニファー・ロペス主演の『セカンド・アクト』といった出演者の知名度で引っ張る作品群もしっかりラインナップされています。

またアメコミファン向けにはマイケル・ベイ監督、「デッドプール」シリーズ製作陣によるアクション大作『6 Underground』(原題)などがあります。さらに、王道作品も用意しています。『The Irishman』(原題)は巨匠マーティン・スコセッシ監督が実在のマフィアを描き、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノらが出演します。

 『『ROMA/ローマ』』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたヤリッツァ・アパリシオが演じるのは家政婦クレオ(写真:Netflix)

映画作品の展開も注目されます。冒頭の通り、『ROMA』は日本でも劇場公開されることが発表され、3月9日から全国のイオンシネマで上映されます。キュアロン監督が当初から劇場公開を希望していたことから、アメリカ、メキシコ、韓国ではすでに劇場でも展開されています。Netflixオリジナル映画としての劇場公開は『ROMA』が初となりますが、そもそもNetflixオリジナルは作品ごとに各地域での展開の仕方もさまざま。ですから、今後も独自のスタイルで業界の常識に縛られずに進めていくことは間違いないでしょう。

さらに、さまざまな趣味嗜好のユーザーにマッチする作品を広げていくことも予想されます。タイムテーブルに合わせて番組をはめていくテレビ放送とは異なり、映像ストリーミングサービスの場合は数に制限がありません。

また映画のように劇場数や公開のタイミングに左右されることもありません。クオリティは担保しつつ、同時にいろいろな作品を並べることができるため、作品数だけでなく、バリエーションを増やすことも追求できます。つまり、数打てば当たるとは言わないまでも、ユーザーと作品のマッチ度が実感として高まっていく。好みにピッタリのテイスト作品を深堀りできるサービスとしての価値も高まります。

これは加入離れを防ぐ囲い込み策にもなります。ディズニーやアップルのサブスクリプションサービス参入によって、迫りくる競争の激化を見越した戦略とも言えるでしょう。

たかだか5~6年の間でエンタメ業界の歴史を塗り替えていくNetflix。映像ストリーミングサービス系スタジオが今、新たな時代を作り出していることを目の当たりにすることができるという意味でも今回の受賞作を見る価値がありそうです。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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