ブレグジットに反対する「エニウェア族」の正体 「リベラルな知識人」が自由民主主義を壊す

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典型的には、彼らは、高学歴(大学卒以上)で、大学進学とともに生まれ育った町を離れ、卒業後もロンドンなど大都市で暮らしている。所得や社会的地位に関しては、社会の上位4分の1に位置する。

思想的には、経済面でも社会面でも「リベラル」である。経済面では市場経済重視であり、成果主義・能力主義を好む。社会面では、グローバル化の進展やそれに伴う改革を支持し、移民の大量受け入れにも寛容である。

戦後ベビーブーマー世代の進歩主義的文化の影響を受け、個人主義的かつ地球市民的な傾向が強く、国民意識など集団への帰属意識に重きを置かない。人種やジェンダーなどの平等に強くコミットする。自由や自己実現を重視し、社会の安定性や国や地域の伝統はあまり重視しない。社会の上位を占めているため、政治では彼ら「エニウェア族」の声が代表される傾向が強い。

従来の左派と右派の分類に当てはまらない

もう1つの集団は、「サムウェア族」(Somewheres)である。「どこか特定の場所に所属している」という意味で「どこかに族」とでも訳せるかもしれない。高卒以下の学歴を持ち、所得や社会的地位に関しては、下位の4分の3に位置することが多い。生まれ育った町に住み続け、ロンドンなどの大都市よりも、地方都市に暮らしている傾向がある。英国や地域社会に愛着を持ち、帰属意識が強い。国民相互、地域住民相互の連帯も重視する。

「サムウェア族」は思想面では、グローバル化やそれに伴う変化を好まず、特に年配者は「昔の英国のほうがよかった」という強いノスタルジーを抱いている。

人種やジェンダーの平等は基本的に受け入れているが、伝統的家族の形態にやはり価値を置く者が少なくなく、「なんでもあり」の態度には疑念を抱く。ごく一部の者を除いて、排外主義や頑固な守旧派ではないものの、現在よりももっと秩序だった、伝統が重視される社会のほうがよいと思っている場合が多い。数としては多数派であるが、政治の場で彼らの声はあまり取り上げられない。

グッドハートによれば、英国民の中で「エニウェア族」に分類されるのは約20~25%、「サムウェア族」は50%前後であり、残りの人々が中間派である。「エニウェア族」と「サムウェア族」は、従来の左派と右派の分類に当てはまらない。左右両派に存在する。

例えば、中道から左派にかけての「エニウェア族」は、医療や教育、マスコミなどの専門職、加えて、いわゆるクリエィティブ産業といわれる職種などにいる。中道から右派にかけては、金融業界やその他の大企業のビジネスマン、法律や会計などの専門職にみられる。

グッドハート自身は社会的属性としては「エニウェア族」的な面を数多く持つ。名門パブリック・スクールで学び、ヨーク大学で歴史と政治の学位を取得し、大卒後は、フィナンシャルタイムズなどを経て、『プロスペクト』という雑誌を創刊したジャーナリストである。

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