ブレグジットに反対する「エニウェア族」の正体 「リベラルな知識人」が自由民主主義を壊す

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しかし、マレーは、現在の知識人は、それを忘れてしまっているのではないかと懸念する。伝統的な文化や宗教、連帯意識、信頼感が、自由民主主義社会の存立を支えるものだということを理解し損なっている。そう警鐘を鳴らすのだ。

伝統的な文化や宗教として、マレーの念頭にあるのは、むろん、キリスト教を軸とする欧州の伝統であり、文化・道徳である。つまり、「古代ギリシャとローマから生まれ出で、キリスト教に影響を与えられ、啓蒙思想の炎によって精錬された欧州社会」(同書401ページ)の伝統であり、文化である。

だが、マレーによれば、現代の欧州の知識人、特に西欧の知識人は、西洋文化は帝国主義や植民地主義を生み出したものだという批判を過度に受け入れてきたため、自分たちの文化に対する自信を失っている。「自虐的」と言ってもいい状態にある。そして、「知性と教養ある人々は、自分たちが育った文化を支えたり守ったりすることなく、むしろ否定し、攻撃し、おとしめることを自らの義務だと心得ている」(同書400ページ)というのである。

その一方、西欧の知識人は、ポリティカル・コレクトネスの意識が高く、移民の文化は重要視し、それを褒めそやす傾向が強い。結局、自分たち西洋の文化や伝統のみ低く評価し、それ以外の移民の文化は必要以上に尊重するという倒錯した状況に陥っていると著者は述べる。

そのため、知識人は、西洋の自由民主主義の秩序が、文化や伝統、およびそれを共有する者が抱く連帯意識を基礎に発展してきたものだということを見失ってしまっている。移民の大規模受け入れ政策に疑問を呈する者がいれば、知識人はすぐに「排外主義者」「非リベラルな者」というレッテル貼りをし、受け入れを継続してきた。その結果、自由民主主義社会の土台が壊れつつある。マレーはそのように指摘する。

英国世論の分断

同様の指摘を行うものはほかにもいる。例えば、マレーと同じ英国のジャーナリストであるデイヴィッド・グッドハートである。彼は、2017年に『The Road to Somewhere: The New Tribes Shaping British Politics』(どこかに続く道――英国政治を形作る新種族)という著書を上梓し、英国をはじめとする欧州諸国の国民世論の分断現象を論じた。

著者は、英国では現在、政治意識の面で国民の間に2つの大きな集団ができているという。1つ目の集団は、「エニウェア族」(Anywheres)と著者が称する人々である。日本語で述べれば「どこででも暮らせる」という自己意識を持つという意味で「どこでも族」とでもいうべき人々である。

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