JR「ダイヤ改正」から読み解く各社の損得勘定 列車本数の増減は、収支をどう変化させるか

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蛇足ながら、JR北海道にとって国鉄が残した交流2万V・50Hzの電化区間はJR北海道にとって重荷でしかないであろう。ただでさえ酷寒地向けの仕様で製造費がかさむなか、直流電車と比べて高価な交流電車を新製し続けなくてはならないというのはJR北海道にとっては悪夢としか言いようがない。

交流電化と直流電化との得失については、ここでは詳述しない。率直に言って交流による電化は国内においては新幹線以外で採用するメリットはほぼないと言える。地磁気観測に影響が出るという理由からJR東日本の常磐線や水戸線、首都圏新都市鉄道の常磐新線、通称つくばエクスプレスで交流電化が採用されたが、JR内房線で採用された整流ポストによる交流き電で直流電化は実現可能だ。

JR東日本は年100億円改善か

運転区間の延長を含めた列車の増発が46本、列車中の車両の増加が延べ10両に達することにより、JR東日本は年間45億2915万円の営業収益が増加すると見込まれた。一方で同社は66本の列車を廃止とし、列車中の車両を延べ12両減らすことによって年間59億1072万円の営業費用の節減が予想される。以上から年間の営業収支改善見込額は104億3987万円だ。

横須賀線では列車の新設と廃止とを同時に実施する。輸送力の増強を図るにあたって車両の増備が行われていないことからその理由が推察できる。

横須賀線の列車は朝の通勤ラッシュ時の混雑率が196パーセント(武蔵小杉→西大井)と年々悪化の傾向にあり、輸送力の増強は不可欠だ。横須賀線の線路を走る大船7時09分発、東京7時58分着、成田空港9時01分着となる特急「成田エクスプレス9号」の東京―大船間を廃止としてまでも、通勤列車の増発が実施されることとなった。

一方で今回のダイヤ改正に向け、現在使用されているE217系電車の増備、または投入が計画されているE235系電車の新製は行われていない。このため、横須賀線の朝の通勤ラッシュ時では、都心方向とは反対となる久里浜方面の下り列車の運転区間を細かく打ち切り、その分上り列車への折り返しが早く行える効果を活用して輸送需要の大きな東京方面の上り列車の増発を実施すると考えられる。

逗子―久里浜間、大船―逗子間で廃止された各1本の列車はどちらも下り列車だ。つまりは久里浜、逗子両駅での折り返しを逗子、大船両駅へと改めることで上り列車を増発する余力を生み出したのであろう。

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