オーケストラ、それは我なり 中丸美繪著

オーケストラ、それは我なり 中丸美繪著

「手兵」大阪フィルハーモニーに君臨した朝比奈隆が亡くなって7年になる。93歳にしてなお指揮台に立とうとしたエピソードには誰もが驚くだろう。熱狂的な朝比奈ファンでなくともその生涯と音楽観には大いに興味を抱かされる。

音大出でないというハンディもものかは、あるときは天真爛漫(らんまん)な駄々っ子、あるときは楽団員の立場などまるで無視の暴君。その人間像が余すところなく描き出される。出自、葛藤、組合との軋轢、組織混乱なども本人は「自由に書け」と言ったらしい。同じスタイリストでありながら帝王カラヤンとは全然違う。

朝比奈といえばブルックナーにベートーベンだが、人間性と音楽的特質が、曲にうまくはまっていたという指摘が紹介される。確かにそうだ。大フィルと実に54年間、世界でも空前の関係は、その希有な個性なくしてはありえなかった。素材の面白さと取材力の幸せな結合の所産であり、貴重な音楽史ともなった。(純)

文藝春秋 1800円

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