製薬業界でいま、「希望退職ドミノ」のなぜ 協和発酵キリンに続き、エーザイ、鳥居薬品も
協和発酵キリンの宮本昌志社長は「グローバル製薬企業として変革しなければならない時期にある。社員一人ひとりも変革に挑む必要がある」と発言している。2018年度で32%の海外売上比率を、2020年度には50%に拡大するのが中期目標だ。そのためには一層のグローバル化に舵を切る必要があるが、そうした変革の流れに合わない社員とはたもとを分かつことも辞さないということだろう。
「社員に新しい機会を追求してもらおうと思った」。エーザイの内藤晴夫代表執行役CEOはこう話したうえで、デジタル時代に製薬会社でも必要になる、データサイエンティストのような人材を積極的に採用する意向を明らかにしている。つまり、社員数の削減というよりは、企業変革のために必要な人材の「質的転換」だ。両社のようにはっきり言わないまでも、業績堅調な製薬メーカーがあえてこの時期に希望退職に踏み切るのは似たような事情があるからだろう。
さらに製薬各社がリストラを急ぐ背景には、各社が置かれた固有の厳しい事情がある。
メガファーマ化の波に乗り遅れる日本勢
1つは日本市場が中長期的に縮小する可能性がある点。厚生労働省は薬価制度を抜本改革し、2018年度から実施に移している。少子高齢化や技術進歩に伴う医薬品の高額化などを主因とする医療財政の逼迫を背景に、薬価を削るのがそのポイントだ。製薬各社にしてみれば、国から「苦い劇薬」を無理矢理飲まされたというのが実態だ。
アメリカの調査機関IQVIAの調査では、2018年の日本の医薬品市場規模は1.7%減と2年連続で減少した。2023年までの中期見通しでも、アメリカやEUなど先進市場で日本が唯一のマイナス成長になるという見通しを発表している。また、外資系メーカーも同様だが、創薬手法の高度化・変革の波が押し寄せていることも、日本の製薬企業には大きな課題になっている。
発売にこぎ着けるまでの薬の成功確率が2万5000~3万分の1となり、薬1つの開発費用は2800億円に拡大しているといわれる製薬業界。開発対象の疾患はアルツハイマー病といった希少疾患やがんなど、ますます難しいものになり、標的となる薬のタネも枯渇しているという声もある。1990年代には、日本企業が得意な低分子化合物から高分子バイオ抗体などに創薬手法のトレンドが大きく変化した。当時と同じ状況がいま生まれつつある。
当時、欧米各社は合併を繰り返し、メガファーマ(巨大製薬企業)化したが、日本の製薬各社はそうした動きに大きく後れをとった。創薬技術が変化し、低分子化合物と高分子(抗体)の両方の研究を同時に遂行するために巨額の資金が必要になるのに、日本企業がその資金を賄い切れなかったのも、メガファーマに大きく後れをとった一因だ。
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