家や土地が「売るに売れない」負動産地獄の恐怖 老朽化マンション問題の顕在化はこれからだ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

25万円、18万円と売値を下げても売れず、10万円でやっと買い手がついた。買値の130分の1になっていた。手数料や宣伝費として仲介した不動産業者に約21万円支払ったため、この取引だけで差し引き11万円のマイナスになった。

それでも男性は「ほっとした」と話す。それは、持っているだけで必ずかかる費用がなくなるためだ。今回持ち出しになった費用は2年で取り戻せる。

10万円で売却した伊豆の別荘地。手数料などを払うとマイナスになった

「あの世に持っていかずに済んでよかったです。売れなかったら、子どもたちに管理費や固定資産税の負担を残して迷惑をかけるところでした。これも断捨離の1つかもしれませんね。土地さえ持っていれば大丈夫、という当時の『土地神話』に押し流されてしまったことは、二重丸、三重丸で反省しています」

負動産のもう1つの特徴は、共有者が多くて自分の意思だけでは身動きできなくなることだ。現在は、相続があっても所有者を変える登記をせず、放置することが問題になっている。子や孫の相続人が共有者になるため、売るにしても使うにしても、全員の合意が必要になり、身動きが取れなくなるのだ。

ところが、マンションはもともと入居者の共有部分が多い。維持管理費を頑張って払い続けられたとしても、同じマンションの入居者がそんな人ばかりとは限らない。今後、共有者の意思統一の難しさに直面するマンションが増えるだろう。

一例が、建て替え問題だ。実は、建て替えが可能なのは、①駅前などの条件がよい場所に建っていて、②高層化する余裕があり、余った部屋を売って建築資金にできる――などの条件がそろった物件でないと厳しい現実がある。かといって、マンションの取り壊し費用は高く、土地が売れる保証もないので、取り壊しも難しい。

では、子孫が継いでくれるだろうか。すでに平均寿命は80歳を超え、相続のときには、子どもも50歳前後になり、マイホームを構えていることが多い。そのとき、老朽化したマンションは、売るに売れない可能性が高い。ところが、負担は変わらないどころか重くなる。

「負動産」問題の今後

すでに日本の住宅総数は総世帯数を超え、国土交通省の2013年の調査で14%だった空き家率は増え続けている。野村総研は、これが2033年には27%になると推計している。一戸建ての空き家は庭木などの管理不全が目に見える。ところが、管理組合の運営に関心が薄いマンションでは一室が放置されても気づかれないままになることが起きやすい。

『負動産時代 マイナス価格となる家と土地』(朝日新書)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

家電や自動車は使わなくなった後のゴミが社会問題になって、売るときからリサイクルを考えた仕組みが入るようになってきた。ところが、マンションは、存在し続けることを前提とした管理費や修繕積立金はあるが、取り壊しまで考えた費用負担の仕組みは聞いたことがない。

マンションの大量供給は1990年代からで、30年が経ったくらいなので、こうしたことが社会問題化するには、もう少し時間がある。それまでに、少子高齢化という社会の変化に合わせた負担のあり方を考える必要がある。

こうした負動産の問題は、主に地方都市で顕在化している。わかりやすいのは、バブル期に建ったリゾートマンションだ。スキーブームのときに乱立した新潟県湯沢町のリゾートマンションは、今、10万円でも買い手がつきにくい。ところが、持っている人には、管理費や固定資産税の請求が来る。軽い気持ちで購入、もしくは相続したものの、この負担に耐えきれず、手数料を払っても手放したい人をあてこんだビジネスまで出ている。

あるリゾートマンションの展望風呂から見る湯沢町のマンション群

今日、負動産における問題として耳目を集めているのが、サブリース問題だ。背景には、更地だと相続税が高く、借金があれば相続財産から減額されるという住宅供給を優先する制度のひずみがある。これが、賃貸アパート建設の営業を後押しし、需要もないのにアパートを建ててしまう人が各地で後を絶たない。また、いまだに価値がない土地に購入話を持ちかけ、大金をだまし取る「原野商法」の被害者がなくならない。

このように、土地や家が負動産になる要因は複雑だ。ところが、いらなくなったからといって、捨てることもままならない。人口減の日本で、負動産の問題は急速に広がることになるだろう。不動産が問題を起こしているわけではない。それをとりまく制度や人々の考え方が「負動産」を生んでいる。1日も早い対策を期待したい。

松浦 新 朝日新聞記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

まつうら しん / Shin Matsuura

1962年愛知県生まれ。東北大学卒業後、NHKに入局。1989年朝日新聞入社。東京本社経済部、週刊朝日編集部、特別報道部、経済部などを経て、2017年4月からさいたま総局。共著に『ルポ 税金地獄』『ルポ 老人地獄』(ともに文春新書)、『電気料金はなぜ上がるのか』(岩波新書)、『プロメテウスの罠』(学研パブリッシング)ほか。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事