日本企業の「人事評価」に欠けている2つの視点 過去の業績だけで評価すると限界がある

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営業成績をさらに伸ばすためには、顧客のデジタル体験について、マーケティングと関連して学ぶことでAさんの可能性はさらに広がると上司は判断します。そこでこれからのAさんの育成計画に、マーケティングの学習機会を増やすようにしてみるのです。そして、この取り組みをまた翌年評価するわけです。課題が身につけばAさんの成長になり、将来価値も上がっていきます。

ちなみに、この9グリッドは、他者との比較が一覧できることもあり、ハイパフォーマーを特定したり、最適配置したり、後継者育成に活用したりと、さまざまな人事領域で使われています。

「離職リスク」を考慮すべき理由

もう1つ、人事評価に取り入れるべき視点があります。離職リスクです。ビジネスの継続性において、人材の流出はできるだけ防がなくてはいけません。終身雇用で社員は会社を辞めずに定年まで勤め上げた時代に制度化された日本の人事評価には、離職リスクが評価項目にありません(もちろん個別に考慮して判定しているマネジャーはいると思いますが)。

今や日本企業でも、若い世代の約50%が入社3年以内に辞めているというデータもあります。教育機会がない、新しいチャレンジをさせてくれない、キャリアパスが見えないなどの理由からです。もう神話は過去のものです。

離職リスクを評価項目として明確に定義しておけば、離職リスクがどれくらいあるのか、それはなぜか、またもし離職されたときのインパクトはどの程度なのかという視点を持つことができます。その人材に対して、より広い見地で価値を測ることができ、もし成長機会の提供が足りないのであれば、企業はそれを補うことで人材流出を防ぐことができます。

例えば先ほどのAさんは、将来価値を伸ばしていける人材と評価しています。ですが、Aさん自身は昨年度の達成率が6割しかなく、今までの自分のやり方に頭打ちを感じ、新天地を探すなど、もしかしたら離職を考えているかもしれません。また、Aさんがいなくなるインパクトも大きいと考えています。その場合、Aさんに継続して活躍してもらうためには、できるだけ早く新しい知識の習得や経験を提供し、期待を知らせることが重要です。

将来の可能性や、離職リスクの視点は、いずれも個人の成長を促すための気づきとなる評価軸です。多くの日本企業での人事評価は、先に述べたような組織主体の評価制度から生まれた経緯があり、管理主体の側面が否めません。昇給査定のための評価に、個人の成長を促す仕組みやプロセスを取り入れてみると、新しい景色が見えてくると思います。

小谷 敦子 コーナーストーンオンデマンド マーケティングシニアディレクター

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こたに あつこ / Atsuko Kotani

日本ではまだ根付いていないタレントマネジメント(人材マネジメント)の市場をつくるべく、コーナーストーン社でマーケティングを統括。外資系IT業界でのマーケティングやコミュニケーション、コンサルティング分野での20年にわたる経験を持つ。

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