膨張続ける調剤バブル、誰がツケを払うのか 規模の力で高収益になった調剤チェーン

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そのバブルぶりが、最も表れるのが出店競争だ。

調剤薬局大手にとって、地域の中核病院の出入り口前に店舗を構えることこそが事業を拡大させる生命線。病院建築に詳しい大手ゼネコン幹部は「薬局の出店は、外来患者の出入り口がどこになるかがカギ。これを聞き出そうと、不動産ブローカーはあの手この手で設計者に近づいてくる」と明かす。

こうした土地の先行取得に長じるのが、アインファーマシーズと規模で双璧の日本調剤。同社は今年10月に、兵庫県の山間部・小野市に開設された北播磨総合医療センターに、非常識ともいえる高額な入札価格で出店したことが話題を集めた。

超高値落札の不思議

今年3月末の入札で、日本調剤は4.2億円で落札。わずか78坪の敷地しかなく、1平方メートル当たり約163万円で、市内住宅地の公示地価の数十倍の超高値だ。

正面玄関前に同じ土地面積の薬局がもう1軒あり、こちらの落札者は、日本保険薬局協会前会長(現名誉会長)の岩崎壽毅氏がオーナーを務める、地元大手の阪神調剤薬局。落札額は日本調剤の約2.4倍の10億円だった。

北播磨総合医療センターは三木市と小野市の病院が統合するプロジェクトで、県下で6番目の規模となる総合病院。事業収支計画では用地関連費を12億円と見積もっていた。つまりこの新築公立病院の土地・造成財源は、調剤薬局2社がすべて支払ったうえ、お釣りまであった、という計算になる。これは偶然なのだろうか。

日本調剤の創業社長は、三津原博氏。前期の13年3月期は4割の営業減益だったが、有価証券報告書によれば「報酬等の総額」(子会社を含む)は5.9億円、12年3月期は6.5億円だった。国内屈指の高額所得者だ。

他の調剤大手社長は「一部オーナーの高額報酬が調剤薬局全体への批判を助長している」と不快感をあらわにする。確かに、日本調剤は、日本保険薬局協会から脱退しており、「独断専行で業界からは孤立している」などと同業他社から揶揄され、批判の矢面に立つ存在だ。

だが、日本調剤や三津原氏個人を責めても問題の解決にはならない。調剤薬局に大きな富をもたらす調剤報酬の仕組みそのものにメスを入れる必要がある。

財務省の財政制度審議会は、14年度の予算編成へ向けた建議で、調剤報酬体系の見直しの観点から、診療報酬本体部分をマイナス改定とすべきことを提言。14年度の診療報酬改定へ向けた攻防が白熱している。医療費の増大、国の財政悪化という形で、国民が調剤バブルのツケを負っていることはもっと認識されるべきだろう。

(撮影:尾形文繁 12月16日発売の週刊東洋経済2013年12月21日号核心リポート01より一部転載)

古庄 英一 東洋経済 記者

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ふるしょう えいいち / Eiichi Furusho

2000年以降、株式マーケット関連の雑誌編集に携わり、『会社四季報』の英語版『JAPAN COMPANY HANDBOOK』、『株式ウイークリー』の各編集長などを歴任。

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