膨張続ける調剤バブル、誰がツケを払うのか 規模の力で高収益になった調剤チェーン

拡大
縮小

調剤市場が1兆円を超えたのは、20年前の1993年のこと。その同じ年に旭川市で1号店を出した業界最大手のアインファーマシーズは現在、全国に約600店を展開し、調剤で年間売上高約1400億円、営業利益約130億円を叩き出す。

調剤大手各社の2013年度決算は、出店増による増収効果で軒並み利益拡大が続く。今期は2年に1度の薬価基準引き下げによるマイナス影響がない点も追い風になっている。

年商3億の店が儲かる

調剤薬局は国が定める調剤報酬によって収入が決まる。調剤報酬は調剤技術料、薬学管理料、薬剤料、特定保険医療材料料からなる。これらには報酬点数が付けられている。薬剤料には薬価差が含まれており、医療機関や調剤薬局の経営を支えてきたが、近年では極めて小さくなっている。

また、営業努力にも報酬点数が付く。後発医薬品、長期投与、在宅患者、夜間・休日といった付加サービスへの報酬加算が認められているほか、患者に「お薬手帳」の作成や更新をさせれば、これも報酬加算される。

調剤報酬は、個人経営の零細薬局が存続できる水準(処方箋1日30枚程度)に設定されているとみられる。1人の薬剤師が扱える処方箋は1日平均40枚までとの規制も、零細薬局が取り扱う枚数30~40枚を想定しているとも受け取れる。

1日の取扱処方箋枚数に応じて薬剤師の人数を調整すれば、人件費、光熱費などコストをうまくコントロールすることで、利益が増える。

東京都心のある個人薬局は、複数の診療科が入居するビルを建てて医療モールを開設。1階にある薬局が途端に儲かり出した。「利益が出すぎる。赤字事業に多角化して節税を考えている」と言う。

業界のM&A動向に詳しい専門家は、「1店舗当たり年商3億円ぐらいの業者が最も儲けている」と見ている。1日100枚の処方箋が集まる店舗を3~4人の薬剤師で分担するケースだ。さらに「年商が20億~100億円の地場のチェーンに対しては、大手がこぞって買収に名乗りを上げる」と打ち明ける。

調剤薬局が儲かるか儲からないかは、立地がすべてでもある。立地がよければ、その繁盛ぶりは際立つ。横浜市郊外の医療モール1階にある調剤薬局は、近隣に大学付属病院もあり、社員とパート合わせて薬剤師9名が対応する大規模店だ。多い月は5600枚の処方箋を取り扱う。

ここで働く事務スタッフの一人は、薬剤師が患者のために休む間もなく働く様子を横目に「繁盛ぶりに矛盾を感じることもある」と言う。「毎日のように違う科に通院し、そのつど薬局に来て大量の薬をもらっている老人を見るたびに、病院のほうで何とかするべきと思う」。

処方箋がなければ調剤薬局は薬を出せない。処方箋を安易に書く医師側のモラルに問題があるというわけだ。

通院が難しい高齢者に配慮し、長期処方が認められている。結果として、「医師が処方しすぎて、薬が余ってしまう事態が起きている」(調剤大手幹部)。

薬を余計に売る、ということでは、他人に成り済まして睡眠薬などの劇薬を二重購入し、「それをネットなどで転売して利益を得る」(同)といった事件も後を絶たない。早稲田大学商学部の土田武史教授は「現状のシステムでは、重複処方の問題は医師も薬剤師もチェックしきれない」と話す。

調剤バブルを増長する“薬漬け”の落とし穴は、いろいろなところにあるのだ。

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