「沖縄をなめるな」に若者たちが見せた連鎖反応 分断と歴史、葛藤の島でもがく若者たち(4)

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青年部長として手がけたのは、住みやすい街づくりだ。保育園の利用料が高い。ごみの収集料金も高い。学校給食や高校生までの医療費の無償化など、さまざまなテーマが浮かぶ。

若い高校生や大学生を集めては、閉塞感を解消するためには何が必要かを話し合った。Wi-Fi環境の整備や遊戯施設などの誘致。これらを公約に加え、LINE(ライン)などのSNSで発信していく。定型的な選挙用語ではなく、候補者の素顔を若者の言葉で動画や写真で拡散していく。いつの間にか若者の熱意がうねりとなって広がっていった。

投票日4日前、青年部長として選挙カーでマイクを握る嘉陽さんのスピーチは、とても大学生とは思えないほど堂々としていた。

「今日は皆さんのお手持ちのiPhone、これで動画や写真を撮っていただく。それをどんどんどんどん拡散してください。この思いをどんどん広げて新しい名護市をつくっちゃいましょうよ! 名護、変わりますよ!」

ここでもSNSでの拡散を呼びかけた。

選挙前は劣勢が伝えられていた渡具知氏だが、2月4日の投票日、約3500票の差をつけての当選が決まった。

選挙後、稲嶺陣営で選挙を手伝っていた男性(68歳)が感想を漏らす。

「チラシを配っていても、若い人の反応が鈍かった。稲嶺陣営にも若者はいたが、選挙対策本部の中枢がツイッターやLINEの重要性や効果を過小評価していた」

翁長前知事の急逝に伴い昨年9月に実施された県知事選で、嘉陽さんは政府の推す佐喜眞淳候補の青年部長の要職に就いた。翁長氏の後継で辺野古新基地反対を掲げる玉城デニー現知事と一騎打ちだ。

玉城デニー氏の勝利の要因は

玉城陣営の若い世代の支援者の中心に、徳森りまさん(31歳)がいた。辺野古への土砂投入の日に風船を持っていき、「私たちは辺野古の海に愛を投入しまーす」と叫んだことを、この連載2回目で紹介した。8月まで海外で仕事をしていたが、帰国直後から玉城陣営の青年局を手伝った。

玉城陣営の選対は急逝した翁長前知事の弔い合戦と、辺野古反対の2つを選挙戦の柱にしていた。だが、玉城陣営が用意した翁長氏の遺影は病気でやせ細り、むしろ痛々しい。翁長氏の急死でショックを受けている県民には、むしろ逆効果に思えた。

辺野古をめぐる対立に辟易としている県民も少なくない。元からの支持者であれば、それもありだが、無党派層は取り込めないと彼女は考えた。集会や演説会に足を運んでくれない人たちの支持を獲得するためには、何が必要か。

彼女は若い世代とともに、玉城候補とはどんな人か。何をしてくれるのか。信用できるのか、などの疑問に答える情報を発信することに専念した。クラブを借り切った若者の集会に参加した玉城氏や、ギターを抱えて歌う姿をSNSで拡散した。

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