興味深いのは、世代別の数字だ。専業主婦・主夫であることに罪悪感が「ない」と答えている比率は、30代以下が29.8%なのに対し、40代では36.2%、50代では53.6%に上がる。専業主婦生活が長くなった50代は喉元過ぎて解釈が美化されている可能性もあるが、周囲の多くが専業主婦だった世代と今の30代では取り巻く環境が違う。女性活躍とさかんに言われ、人数的にも専業主婦のほうがマイノリティになりつつある。
1955年からの主婦論争
この「後ろめたい/後ろめたさなんか感じる必要ない」論争。「しゅふJOB総研」の調査は、もともと専業主婦であることに罪悪感を覚えてしまう人がいることに問題提起する意図だったのだが、テレビで紹介された際、調査自体が罪悪感を押し付けているかのように捉えた一部視聴者の間で炎上した。
作家の橘玲氏は、専業主婦のさまざまなリスクを指摘した著書『専業主婦は2億円損をする』の中で、編集者に専業主婦批判はタブーになっており「専業主婦を敵に回してもなにひとついいことはないから、そんなことする女性の筆者なんかいません」と言われて男性の自分が引き受けることにしたと書いている。
しかし、それでも発売後にこの本を紹介した記事が炎上し、ほかに50万部も売れた本もあるにもかかわらず、橘氏が書いた中で最も社会的な反響が大きな本だったと文春オンラインで語っている。
専業主婦を妻に持つ夫を取材した本連載の記事でも、「妻が専業主婦だと言うと『養えるなんてすごいですね』と嫌味みたいに言われることもある」「妻も最近は専業主婦をしていると言いづらいみたいだ」という声も聞いた。女性活躍がもてはやされ、外で働く人が増える中で風当たりが厳しくなっているゆえに、反発も大きいのだろう。
専業主婦の経済的リスクを指摘したときの反応を大きく分けると、おそらく2種類ある。
この2つの意見は一見、真逆にもかかわらず、どちらも主婦の仕事に対して価値が評価されていないことへの、不満でもある。
「主婦は働くべきか」からはじまり、「主婦だって立派な仕事である」「専業主婦は三食昼寝付きでいい身分」といった主婦の見られ方をめぐって議論が繰り広げられる、 いわゆる「主婦論争」には半世紀以上の歴史がある。
上野千鶴子『主婦論争を読む(1・2)』や妙木忍『女性同士の争いはなぜ起こるのか』などでは、1950年代からの議論が整理されており、中には「専業主婦、くたばれ」といった過激な発言まで繰り広げられた様子が書かれている。
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