沖縄の世論を動かした若者たちの断固たる行動 分断と歴史、葛藤の島でもがく若者たち(3)

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元山さんは、アメリカ軍の普天間飛行場を抱える沖縄県宜野湾市出身だ。東京の国際基督教大学に通っていたころに、安倍晋三内閣が国会に提出した安全保障関連法案に反対していた若者の組織SEALDs(シールズ)に加わった経験がある。辺野古新基地建設の埋め立ての是非を問う県民投票が、当時、政府と対峙していた翁長雄志前知事の後押しになればと2017年12月に「辺野古」県民投票の会を立ち上げ、昨年4月からは、一橋大学大学院を1年間休学して取り組んでいた。

大城さんは、元山さんが辺野古の新基地建設をストップさせたいという思いが強いことは理解している。だが、彼が一方で言い続けているのは、対話の必要性だ。沖縄戦や戦後のアメリカ軍統治下で抑圧されてきた世代と、その苦難を知らない若い世代。新基地建設を容認する人たちと反対する人たち。それに島で生活する人たちがさまざまな問題を抱えていることも、同じ県内で知られていない。アメリカ軍基地という外からもたらされたものを巡って生じるさまざまな分断を乗り越えるために必要な対話。県民投票はその対話につながる、と元山さんは考えているのだ。 

5月から、署名集めが始まった。だが、スタッフにとって、住民投票は初めての経験だ。署名用紙をつくる作業さえおぼつかない。2カ月で有権者の50分の1に当たる2万3000筆が実施の条件だ。しかも、元山さんは、全市町村で有権者の50分の1を集めたいという。周知さえできていない中、街頭で署名を集めても効率が悪い。1カ月経っても5000筆ほどしか集まらない。大城さんは焦った。「やばいことに足を突っ込んでしまった」と後悔するが、元山さんは、「何とかなるでしょ」と悠然と構えている。

元山さんが言うとおり、転機はすぐに訪れた。署名が思うように集まっていないことが地元紙で報道されると、県民から事務所に電話が殺到した。

「どこで署名すればいいの?」「用紙をちょうだい。仲間で集めるから」

署名は瞬く間に増えていく。最終的には条件を大幅に超える約10万1000筆(重複などを精査した結果は約9万3000筆)に達した。県議会で県民投票条例が可決され、あとは機運を盛り上げていくだけだ。

だが、落とし穴が口を大きく広げて待っていた。

県民投票に異論あることは百も承知

年末から年始にかけて、沖縄市、宮古島市、石垣市、うるま市、それに元山さんの住民票のある宜野湾市の5市長が、不参加を表明、ないしは最終判断を保留していた。

元山さんらは各市の市長や市議会議員に面会を求めて参加を請うたが、意思を覆すことはできない。このままでは有権者の3割強にあたる約36万人が投票できないことになる。住んでいる地域によって1票を行使できない人が出てくる。常識から考えたら理不尽極まりないが、5市長はかたくなだ。窮地に追い込まれた元山さんが、思い悩んだ末に行きついたのがハンストだった。

元山さんは、いきなりハンストに突入するのは危険だとのアドバイスを受けて、数日間は食事制限をして身体を慣らしていった。そして1月15日朝8時半から、宜野湾市役所前でハンストに突入した。元山さんの宣言だ。

「沖縄の先人たちは土地を守るためにあらゆる場面で闘ってきた。投票権を勝ち取った1968年の主席公選から約50年経って、やっていい投票と、やってはいけない投票があるのは、あまりに屁理屈。これに抵抗するためのハンストはありだと思う」

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