沖縄の若者が「戦後世代」との間に見る高い壁 分断と歴史、葛藤の島でもがく若者たち(2)

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沖縄の戦後世代は、こういう修羅場を経験しながら強くなってきた。シンポジウムで不満を述べた男性の思いも、ここに来ると理解できる。

座り込み現場に立てられたテントで、何人かのシニア世代に若い世代について尋ねてみた。名古屋から辺野古に移住して通い続けている男性(68歳)に、機動隊員に対する「敬語」について聞いてみた。

「攻撃的な言葉は減ってきた。若い人の影響もあるんじゃないかな。かつては若い世代に『こんなことも知らないのか』って、壁を作ってしまっていた。それが若い人が政治参加し始めた昨年の知事選くらいから徐々に変わってきた。彼らが通いやすい環境を心掛ける意識は芽生えてきた」と打ち明ける。

「分断は解消できるはず」

昨年12月14日の辺野古新基地建設現場での土砂投入があった日、徳森りまさん(31歳)は早朝から友人と辺野古の米軍基地ゲート前に駆けつけた。琉球大学を卒業後、早稲田大学の大学院で国際関係論を勉強し、昨年9月の県知事選では、玉城デニー現知事の陣営で若者を束ねた人物だ。

この日、徳森さんの車には60個の色とりどりの風船が積まれていた。夕方、その風船を手に仲間たちとグラスボートに乗り込んだ。こんな危機を迎えはしたが、そんなときこそ明るく前向きに取り組む必要があると思った。

「土砂が投入された辺野古の海に私たちは愛と元気を投入しよう!」

そうアピールしながら、立ち入り禁止を示す海上のブイに近寄っていくと、国に雇われている監視船が近づいてきた。みんなで風船や手を振ると、普段なら厳しい顔で警戒している船長が、なんと手を振り返してきた。気持ちが通じたと、みんなで手をたたいて喜んだ。どんな相手でも分断は解消できるはず。徳森さんはそう信じている。

2014年に登場した故翁長雄志前知事は、「イデオロギーよりアイデンティティー」と呼びかけて革新・保守の枠を取り払って、分断化された沖縄県民の心をまとめようとした。一定の成果を上げながらも、だれも指摘できなかったのが世代間の認識のズレだ。

戦後世代が苦難の歴史をかいくぐってきたのとは対照的に、若い世代はその苦難を知らない。それだけでなく、本土でもウチナーンチュであるがゆえに差別されてきた経験を持つ戦後世代に対し、若い世代は安室奈美恵に代表されるアーティストの活躍で差別された実感に乏しい。両世代の融合が一気に進むというわけにはいかないだろう。だが、かつては容易に語れなかった世代間の認識のズレをお互いが認識し始めていることだけは確かなようだ。

県民投票の会主催のシンポジウムで、元山さんが呈した戦後世代へのメッセージは、若い世代に共通する思いだ。

戦後世代は、どんなボールを返すのだろう。

辰濃 哲郎 ノンフィクション作家

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たつの てつろう / Tetsuro Tatsuno

1957年生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、朝日新聞社に入社。支局、大阪社会部を経て、東京社会部で事件担当や遊軍キャップ、デスクなどを務める。2004年退社。主な著書は『ドキュメント マイナーの誇り―上田・慶応の高校野球革命』 『海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実』、共著は 『歪んだ権威 密着ルポ日本医師会~積怨と権力闘争の舞台裏』 『ドキュメント・東日本大震災 「脇役」たちがつないだ震災医療』。佼成学園高校で甲子園に出場。慶応大学では投手だった。関連して著書に『ドキュメント マイナーの誇り・上田慶応の高校野球革命』がある。

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