「アルツハイマーになった私」が伝えたいこと

「自分を失う」のはとてつもなくつらいけれど

うれしいことに、この治験では私は副作用が出ておらず、アルツハイマー病の治療法発見のために尽力しているすばらしい人々と出会う機会にも恵まれている。

私が経験したアルツハイマー病の症状で最も顕著なのが、言葉が出てこないことだ。話をしていても突然頭が真っ白になる。空虚に陥ったような気分になり、たいていは身振り手振りで訴えることになる。

30秒間思い悩んだ後に言葉が降ってくることもあるが、そうでないときは、私の言いたいことを相手が推測するゲームになる。そんなときはフラストレーションで涙があふれてしまう。

実のところ、泣くことはアルツハイマー病の最もよくある症状の1つのようだ。ある晩、家族と一緒にレストランにいると、だんだんと疲れてきて、突然泣き出してしまった。涙が止まらず、恥ずかしさも込み上げてきて、ティムと私は店を出た。30分ほどして、自宅近くに戻ってきたときにやっと涙は止まった。

その日は長い1日だったが、涙の理由はわからなかった。別のときには、緊迫した会議の後で感情があふれ、オフィスに人がいなくなると私はむせび泣いた。

興味深いことに、以前の私はそれほど泣き虫ではなかった。でも今では、コントロールできない涙管の原因と思われる不安を抑えるための薬を飲んでいる。

アルツハイマー病は孤独感を増大させるとも言われている。特に気分が落ち込んでいるときは、自殺が頭をよぎる。自分を失う現実に直面することはとてつもなくつらい。

それに加えて、無力で、何をするにも人の助けがいるようになることの恐れから、すべてを終わらせることが賢明な選択に思えることもある。自殺幇助やいわゆる「理性的自殺」は人権の1つだと信じる人々に、私は賛成するようになった。

あなたたちを忘れても驚かないで

でも今は、私にはまだ人生があると自分に言い聞かせている。前に進み続け、家族とペットを愛し、アルツハイマー病の啓蒙のためにできる限り活動するのだ。

治療薬の治験も続けようと思う。私自身のためではなく、この病がなくなり、未来の世代がアルツハイマー病に苦しむことなく、また愛する人が徐々に消えていくのを見ずにすむように。

それまでの間は、支えてくれている人たちやアルツハイマー病協会に貢献してくれている人たちに心から感謝したい。そうした支援は私にとってとても大切だ。

ただ、彼らに言っておきたいこともある。私があなたたちのことを忘れても驚かないでほしい。私に再び自己紹介をすることになったり、一緒に体験したことを私に教えたりすることになっても、怒らないでほしい。

私はもうしばらく戦う。でも、私には明るい未来が以前よりはっきりと見えている。

(執筆:Philip S. Gutis、翻訳:中丸碧)
(c) 2018 New York Times News Service

著者のフィリップ・ギティスは元ニューヨーク・タイムズの記者。2016年にアルツハイマー病と診断された。
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