日本車人気車種も崩落! ゼロ金利でも凍える北米自動車市場
ロサンゼルス市のダウンタウンから自動車で30分ほど走った、カリフォルニア州のエルモント。その広大な敷地に、ピックアップトラック「タンドラ」やSUV「ハイランダー」など、トヨタブランドの車種がズラリと列をなす。
ここはトヨタ車を月販2500台、レクサス車を600台も売りさばくトヨタ系のディーラー、ロンゴ・トヨタの店舗である。トヨタ自動車と直接資本関係はないが、規模では全米で最大。世界中のトヨタ系列でも、最大手のディーラーだ。店頭に並べたクルマのフロントガラスには金利「0%」の文字が躍り、クリスマス商戦に向けて、レッドタグ(赤札)を掲げた2008年モデルの特売セールも始まった。
トヨタの場合、米国の販売エリアは10地区に分けられ、ディーラーは全米に約1450店舗を構えている。米トヨタ自動車販売のある幹部はこう打ち明けた。「ロサンゼルス地区は11月で4割減。米国全体では3割強の減少だから、他の地区よりも下げ幅は大きい」。一時は、農家向けだったピックアップトラックがやがて一般家庭用へと幅広く普及し、バカ売れしていたのは昔の話だ。
一方で、南部のテネシー州。州都ナッシュビルでは日産自動車系の最大ディーラーのブレント・アダムス氏も、現状をただただ嘆いた。「11月の売り上げは5割も落ちた。購入希望者の数自体が半減している」
ゼロ金利でも不振は深刻化 コスト負担だけは肥大
「Saved By Zero!」米国のリビングに軽快な音楽とともに流れる1本のCM。トヨタが今秋から始めた、ゼロ金利キャンペーンの広告だ。トヨタでは10月3日から11月9日までの間に購入した顧客を対象に、金利なしで新車のローン販売を開始した。これだけ全米規模でゼロ金利販売を展開するのはかつてなかったことである。
対象となる車は、何も大型車ばかりでない。人気の高い量販セダン「カムリ」や「カローラ」も含み、全体の7割に当たる11車種だ。適用期間はモデルごとに36~60カ月で、最大5年分の金利がタダになる。当初は11月3日までのはずが9日まで延長し、その後も全米一斉ではなくなったものの地区ごとに続いている。
「ゼロ金利でトヨタ車にも興味を持ってくれる人が増えた。12月からの新車『ベンザ』のプロモーションにもつながっている」(ボブ・カーター・米トヨタ自動車販売副社長)。
ゼロ金利販売を打ち出したのは、トヨタばかりではない。日本勢でも日産やマツダが追随。ホンダはゼロではないものの、平均7%から1・9%まで引き下げた。ゼロ金利は、販売不振のビッグ3が01年の米同時多発テロ後から展開したが、勝ち組の日本勢には無縁のものだった。現状は隔世の感がある。
米ホンダの上野洋一郎・販売担当副部長はいささか自嘲ぎみだ。「いったんゼロにすると消費者はそれを忘れないし、ブランドイメージにも悪影響が出てしまう。たとえ売れたにせよ、残存価格(中古車の下取り価格)も下がっているから、転売しても結局得にはならないし……」。
その言葉が示すとおり、ゼロ金利などのテコ入れ策は不発に終わっている。米国の新車販売台数は5月から10%以上の減少が続いたが、リーマンショック後は10月34・5%減、11月36・7%減に陥った。ゼロ金利を始めた10月以降の日本勢も2~3割台の減少は当たり前で、ゼロ金利開始が遅れた日産の11月は42・2%減だった。「ガソリン価格は下がったのに人々は車を買わない」(ドミニク・トルマン・北米日産副社長)。
勢い自動車メーカーは、他社より1台でも多く売ろうと、インセンティブ(販売奨励金)を積み増してきた。一般的にインセンティブは、ローン金利を引き下げたり、リースの顧客優遇措置をとったり、直接消費者にキャッシュバックしたりと、実質的な値引きの原資となる。ゼロ金利販売もその一環で、目下毎月のように金額は膨らみ続けている。
8~9月に社員向け割引価格を全購入者に拡大したゼネラル・モーターズ(GM)の場合、1台当たりインセンティブは11月までの平均で3281ドル。年300万台以上を販売したとして、総額は100億ドル近い。トヨタも今回のゼロ金利キャンペーンだけで、「2・5億ドルの予算を投じた」(業界筋)という。はたして巨額を投じて、どれだけの費用対効果があったのか、疑問が残る。