費用面だが、まずエージェントフィーや保険、新規で来てもらう場合は渡航費など初期費用が万円単位でかかる。肝心の給与は、家事労働者の出身国や経験によって異なる。
わが家はシンガポールの日本人家庭で働いていたことのある独身のフィリピン人女性に、相場の中では割と高めな月750シンガポールドルで働いてもらっていた。別途税金も300ドル程度かかり、トータルで月にかかる費用は日本円で8万円程度。
そのほかに彼女の食費、シャンプーなどの日用品など生活関連費、医療費を負担。通常は2年経過して契約期間終了時に帰省させてあげるための飛行機代を負担する必要があるが、本人の「家族とクリスマスを過ごしたい」という希望を尊重し、5カ月目には有給で2週間フィリピンへの帰国を認め、飛行機代をこちらで支払った。
月500シンガポールドル(4万円)台で雇うケースもあり、帰国なども認めなければ年間の費用はもっと抑えられるが、わが家の場合は1年間で100万円強をヘルパー費用として支出することになり、その分自分もしっかり稼がなきゃという気分にさせられた。
メイドさん側に入る収入や時給を考えれば安すぎると思う人もいるかもしれないが、母国で同じ仕事をする場合に比べると倍程度稼げるという。また、住居費などがかからず、彼女たちは月収がほぼ可処分所得になる。母国の家族に送金したり、将来のために貯蓄や勉強する費用に充てる人もいるが、シンガポール内で日曜日にオシャレをしたり、メイド仲間と遊ぶのに使っている人もいて、一概にグローバルな経済格差によって「搾取されている労働者」というわけではない。
住み込みメイドにまつわる論点
こうしたメイドの仕組みだが、倫理的にどうなのかという点での議論もある。シンガポールの場合はコンドミニアムの間取りでキッチン脇にヘルパーが滞在できる小部屋があることが多いが、多くの住み込みメイドの住環境は良いとは言えず、プライバシーは守られにくい。
Rhacel Salazar Parreñas,2015 ”Servants of Globalization : Migration and Domestic Work, Second Edition"によれば、カナダやイタリアなど転職の自由や永住権が得やすい国と比べると、UAEやシンガポールは管理が厳しく、人権が制限されているという。 シンガポールに来るメイドさんたちは健康診断で妊娠が分かると強制帰国となり、家族を帯同することもできない。
シンガポールの新聞では、たびたび雇用主がヘルパーを虐待したり食事を与えなかったりした罪に問われているというニュースも報じられる。メイドさんたちが劣悪な環境に置かれた場合に、抜け出すためのサポートの必要性も叫ばれており、NPOやメイドコミュニティが発達している国もある。
女性学の世界では、先進国のホワイトカラー層がこれまで「女性の役割」とされていた家事を別の国の貧しい女性、つまりメイドさんたちに任せることで解決していることについて、その階層化を指摘する議論も巻き起こってきた。
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