母国に自分の子どもを置いてきて先進国で雇用主の子どもを育てているメイドさんも多く、その葛藤が書籍や論文で多く描かれてきた。ただし、こうした議論は海外でメイドとして働くこと、あるいは雇用主がメイドを雇うことそのものを否定しているわけではなく、残された子どもが父親を含む親せきや公的サポートによりしっかり支援を受けられることや、ある程度の頻度で帰省ができることなどの必要性を指摘している。(参照:Rhacel Salazar Parreñas, 2004`The Care Crisis in the Philippines: Children and Transnational Families in the New Global Economy’)
メイドさんを雇うにはマネジメント力が必要?
彼女たちは国内経済が改善しない限り職に恵まれておらず、前向きに家事労働で出稼ぎをしにきている面もある。筆者としては、この枠組みを一切使わないということではなく、個人同士が良好な関係を築くことがいちばんではないかと考えた。
できるだけ対等に公平に相手に接して、人権に最大限尊重をした雇用関係を持つ。さまざまな経験談やアドバイスも聞いていたので、大丈夫という気持ちもあったかもしれない。ところが、関係構築は理想どおりにはいかなかった。
わが家の場合、メイドさんの稼働時間は当初、朝6時半から、昼間の休憩2~3時間を挟み、夜20時まで。朝ご飯の準備に始まり、家族を送り出した後に皿洗いや掃除、食材などの買い物に行ってもらったら、午前11時ごろになる。
その後は昼ご飯をとってもらい、子どもの送り迎えが必要な時は15時頃に手伝ってもらい、夕飯の準備、片付け、子どもの寝る支度の準備などをしてもらうというスケジュールだった。
当初はよく働いてくれていたが、そのうちに稼働時間は午前中の4時間程度で、午後は夕飯の準備と片付けをするのみになっていった。彼女の手際が良くなった、子どもがスクールバスを使い始めたなどのポジティブな理由もあったが、一度フィリピンへの帰省をした後、わが家のメイドさんは明らかに仕事をさぼりはじめた。
最低限のことしかやらなくなり、こちらが何かをお願いしても、返事もせず無視することもあった。勤務時間中にフィリピンの家族とWi-Fiを使って長電話していることも増えた。もちろん、彼女にも言い分はあったかもしれないが、こちらは不満が募っていった。
こうしたすれ違いを避けるため、「ハウスルール」と呼ばれる雇用主とメイドの間のルールを設ける家庭も多い。シャワーを浴びていいのは勤務時間後、また勤務時間後の外出には門限を設け、昼間はスマートフォンを取り上げているケースも普通だ。
日々のタスクまで細かく決めている家庭もある。当初はそこまでする必要がないのではと驚いたが、チェックリストを作るくらいの枠組みのほうが感情に左右されず仕事をしてもらえただろうと今では思う。
そのほかにも、2歳の娘を見ていてくれるようにお願いしたときに、けがをしても知らぬ顔……といったことが相次ぎ、指摘をしても改善が見られなかったために、子どもたちを安心して任せておけないと感じるようになった。
お風呂の後に着替えさせるといった「ちょっとした手助け」が必要なときにも、子どもたちも「ママがいい」となり、メイドさんはそれを言われるとすぐに諦めて自室にこもってしまう。子どもたちが15時半に帰ってきてからの子育てはほとんど私がやることになった。
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