池上彰が説く「北方領土問題」の歴史、超基本 首脳会談直前!歴史的な経緯を振り返る

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今度はアメリカとの関係が悪くなってしまうから、安倍総理大臣としては、プーチン大統領との話し合いの中で、歯舞、色丹にはアメリカ軍の基地を置かないから大丈夫ですよ、と約束するわけにはいかない。北方領土問題は非常に難しい駆け引きがあって、なかなか進展しません。それが現状なのです。

なぜ4島一括返還にこだわるのか

そもそも北方4島は日本固有の領土である、と宣言してしまった以上、その方針を途中で取り下げるわけにはいかない、という日本政府の立場があります。国後や択捉は、歯舞、色丹よりずっと面積が広い。昔、大勢の日本人が住んでいて、お墓もある。だから4島とも返してもらわないと、北方領土問題は解決しないと考えているのです。

でも、ロシアの行動を見ると、4島一括返還をする気はないことがわかります。国後と択捉にロシア軍の基地をどんどんつくっているんですね。北方領土はロシアにとっての緩衝地帯なのです。有事の際、ロシアの領土に直接影響が出ない緩衝地帯として、国後と択捉だけは自分の下に置いておきたい。将来的に歯舞、色丹が日本に返還された時に、ここがロシアとの国境線になるでしょう。その時を見据えて国後と択捉の守りを固めようとしているのです。

日本が、4島一括返還にこだわっている限り、ロシアは絶対返さないでしょう。だけど、日本側が、2島でいいから返してほしいと言うと、日本の右翼から裏切り者と攻撃を受ける可能性がある。日本の政治家は、かなりの人が4島一括返還は無理だとわかっています。

わかっているけれど、2島でいいですと言った途端、自分の身が危うくなるから、決して口にしない。4島一括返還を言い続けている限り、悪いのは返さないロシアだという理屈になるでしょう。それによって、政治家は自分の身の安全が保たれる。そういう構図になっているんですね。

でも、こんなことをやっていたら、いつまでも北方領土問題は解決しないと、解決策を考えた人がいるんですね。それが、当時衆議院議員だった鈴木宗男氏と、その懐刀で外務省主任分析官だった佐藤優氏です。

2001年に、「2島先行返還」というアイデアを出しました。この「先行」というのが、アイデアだったわけです。ロシアには、4島返還は無理なので歯舞、色丹を先に返してもらう。国後、択捉には、これまでどおりロシアの人たちが住んでもらってもいい。自由に使ってください。しかし国後と択捉はもともと日本のものだということは認めてほしい。潜在的な主権が日本にあることはなんとか認めてほしい。そういう妥協策を考えたんですね。

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