「増税反対論」は日本人を不幸にするだけだ 経済成長前提の社会モデルには限界

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財政が厳しい中で、どこから予算を削るかが問題になった。まずやり玉に挙がったのが、公共投資。公務員や特殊法人もたたかれた。生活保護の受給もそう。犯人を探す不幸の再配分の闘争が行われている。人間には承認されたい欲求があります。

ところが、雇用が不安定化し、収入が減少、自分の力を認めてもらえない人が増えている。すると、自分より能力が低い人を見つけてバッシングする側に回ろうとする。あれよりはまし、自分は中流なんだと信じ込みたい。いわば、転落への恐怖です。

自己責任社会が直面するこんな現実への処方箋を示せれば、リベラルの居場所が見つかる。各個人が銀行に預けた金で医療や教育、老後に備えるのではなく、税金を集め、それを社会保障に充てれば、貯蓄がなくても安心して生きていけます。そんな新しい社会モデルをつくりたい。

成長をした社会モデルに無理がある

──勤労国家の前提である経済成長が鈍化してしまったのですね。

井手英策(いで えいさく)/1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程を単位取得退学。横浜国立大学などを経て現職。専門は財政社会学。著書に『経済の時代の終焉』『分断社会を終わらせる』(共著)『18歳からの格差論』『富山は日本のスウェーデン』など(撮影:大澤 誠)

自己責任で生きるには、所得が増え貯蓄できることが必要。オイルショック以降、政府は借金をしながら、減税と公共投資で成長の隙間を埋める努力をしてきた。しかし、とくに1990年代以降、経済が弱まっていく速度が上がり、政府が借金を重ねても、成長できなくなった。

今後はもっと厳しくなります。成長を決める4つのファクターのうち、労働力人口、設備投資、労働生産性には期待できない。最後の希望は技術革新だが、これは起きるかどうか、誰にもわからない。わからないものに将来の安心を委ねるわけにはいかず、成長を前提としない社会モデルに変えなければならない。

──もう高成長が難しいことを多くの人は理解していると思います。

アベノミクスの負の遺産といったらよいのか。安倍政権期の実質経済成長率は平均1.2%。五輪景気やアメリカの長期好況が重なったにもかかわらず、バブル崩壊以降の平均1%とほとんど変わらない。何でもありのアベノミクスを続けても、かつて世界2位だった1人当たりGDPは25位から30位程度。これが現在の日本経済の実力で、首相自身も「この道しかない」と言いながら、アベノミクスの限界に気づいています。

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