「豚コレラ」発生がミニブタ2頭を襲った悲劇 「家畜感染症」から私たちが学ぶべき事は何か

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今回、東海地域で発生した豚コレラとは異なり、動物の感染症の中には人間にも感染するものが多くあります。たとえば鳥インフルエンザや狂犬病、エキノコックス症などが挙げられます。

これらは人獣共通感染症と呼ばれ、現在医学・獣医学領域において多くの研究が進められている分野でもあります。中にはワクチンや治療法がないものもあるため、いかにして人間社会にこれらの病原体を持ち込ませないかの対策が非常に重要です。

「とん吉」と「とん平」が殺処分された理由は?

最初の話に戻りましょう。今回東海地域で拡大を見せた豚コレラ。「とん吉」と「とん平」が殺処分されてしまったのは、2例目の事例が発生してからです。とん吉・とん平が飼育されていた「ぎふ清流里山公園」は、2例目の農場からは直線距離にして15km以上離れています。

近隣の地域の野生イノシシから陽性反応が出ていた時期でもあるうえ、イノシシの行動範囲は数キロメートル四方に及ぶこともあります。そのため、公園職員は行動範囲を考え、「もし陽性個体のイノシシが侵入してきて、そこから感染してしまったら……」と考えたのでしょう。

しかし、豚コレラを法定伝染病として指定している家畜伝染病予防法や防疫指針では、基本的には患畜(家畜伝染病にかかっている家畜)および疑似患畜(患畜となるおそれがある家畜)のみが殺処分の対象となっています。

【2019年1月23日18時20分追記】記事初出時、家畜伝染病予防法や防疫指針における説明が不足していましたので上記のように修正しました。

さらに、口蹄疫の際でも農林水産大臣による地域の指定や家畜の指定が必要です。今回は職員のみで殺処分を判断したと考えられ、法律上の手続きにはのっとっていないのではないでしょうか。

また、殺処分する前に、現在豚コレラが発生した際に周辺の農場で実施しているような野生イノシシの侵入防護柵の設置や家畜の移動の禁止といった処置を自主的にまずは取るべきであり、とん吉やとん平と来園者との触れ合いを「豚コレラが周辺地域で発生しているため、しばらく触れ合いはお休みです」と掲示して中止し、来場者の手足や乗用車への消毒を実施すればよかったのではないでしょうか。

殺処分はすぐに取る手段ではありません。何もできないときの「最終手段」です。まずは考え、対策を練ることで1つでも多くの命が救えると思います。もう、とん吉・とん平は帰ってきません。

この件から、家畜感染症に対する対応は殺処分がすべてではないことを学び、スピーディーにまずできる対策を行って侵入・拡大防止策を実施することが、わたしたち人間の使命ではないでしょうか。

板ノ上 まぐろ 動物コラムニスト

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いたのうえ まぐろ / Maguro Itanoue

国立大獣医学科を経て、関西の国立大法学部に編入。現在は都内のベンチャー企業に勤務するOL。獣医学生時代は特に感染症学・ウイルス学、法学部生時代は国際法や国際政治について知見を深めた。「ホンモノにあたる」をモットーにし、東南アジアを中心に海外に1人で飛び出す行動派でもある。

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