NEC、デンマークIT大手買収は「安い買い物」か 過去最大1360億、セーフティ事業構築の成否

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KMD社のアニュアルレポートによれば、PEファンドが買収した後の5期間、KMD社は4期が最終赤字だった。直近の2期は営業利益も赤字である。2016年12月期に73億円、2017年12月期に64億円の特別費用を計上している。

主な内訳は2016年12月期が訴訟費用29億円、構造改革費用12億円、人員削減費用16億円。2017年12月期も訴訟費用16億円、構造改革費用10億円、人員削減費用16億円を計上している(1デンマーククローネ=16.7円で為替換算)。

山品常務によれば、構造改革はフェーズ1が完了していて、フェーズ2も6割まできているという。残り4割を2019年12月期に終えて、2020年12月期からは構造改革費用がほとんど発生しない見込み。訴訟費用も2019年12月期に出尽くすのだという。

営業利益は2期連続の赤字

KMD社は、連結EBITDAが2017年12月期に115億円もあるのに連結営業利益がマイナス9億円と2期連続の赤字、最終利益はマイナス49億円で2期連続の赤字なのは、以上のような「特殊な費用と借入金の利払い圧力によるものだ」と山品常務は説明する。789億円の有利子負債は今回の買収で完済、特殊費用もなくなることから2015年12月期並みの営業利益(57億円)は十分達成可能で、最終黒字化も容易だと山品常務は強調する。

こうした説明は、2018年1月に発表したイギリスのノースゲート社買収時と似ている。同社は、直近の2017年4月期が6億円の営業赤字、最終利益は61億円の赤字だった。145億円の債務超過だが、山品常務は「NECの買収資金で債務が劇的に減少。債務超過から脱する見込みだ」と1年前に語っていた。

今回買収したKMD社や約1年前に買収したノースゲート社は、NECのもくろみどおりに業績が急改善するだろうか。買収後の経営改善が進めば、新野社長が語ったように「割安な買収」だったことになる。だが、そうでなければ「高い買い物」だったのではないかという疑いが強まるに違いない。

【2019年1月15日11時10分追記】初出時の記事で、KMD社の成り立ち、KMD社の2018年12月期の連結EBITDA、ノースゲート社の国名に誤りがありましたので、上記のように修正しました。

【2019年1月15日21時追記】初出時の記事で、NECがKMD社を選んだ経緯について、一部の記述を削除いたします。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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