NEC、デンマークIT大手買収は「安い買い物」か

過去最大1360億、セーフティ事業構築の成否

新野社長の言うとおりなら、NECはなぜKMD社を安く買えたのだろうか。また、なぜNEC以外の買い手が現れなかったのだろうか。その鍵を握るのはKMD社の成り立ちである。

話は2009年にさかのぼる。デンマーク政府は行政手続きのデジタル化を進める資金を捻出するために、国営企業だったKMD社を民営化した。当時、買い手として手を挙げたのが欧州系ファンドのEQT。その後2012年に複数のプライベート・エクイティ(未公開株投資、以下PE)ファンドを運営する投資会社、アメリカのアドベント・インターナショナル・コーポレーション(以下AIC社)が買収した。

PEファンドが投資する際の常套手段は、買収先を担保に金融機関から融資を受け、買収後に買収のために設立した特定目的会社と買収先を合併させる。KMD社も同様のスキームで買収した。このためにKMD社は約700億円という巨額の借金を抱えている。

買収先の企業で訴訟が次々と発生

山品常務によれば、AIC社はKMD社の開発投資に消極的だった。「PEファンドがオーナーになってから十分な投資ができていなかった」(山品常務)。一方で、AIC社は買収戦略を展開。7社を買収しKMD社の傘下に収めた。レガシー(既存事業)の構造改革を推進し、効率化を進める一方、買収戦略でKMD社の価値向上を図った。

ところがこれが裏目に出た。KMD社をIPO(株式公開)させてイグジット(利益を確定)しようとしていた矢先に、KMD社傘下に収めた企業が手がけたプロジェクトで訴訟が次々と発生。IPOどころではなくなったのだという。PEファンドの投資期間は3~5年が通常と言われるなか、KMD社へ投資してからすでに6年が経ち、AIC社は途方に暮れていたのだという。

一方のNECは海外セーフティ関連企業に狙いをつけ、世界で5万社をリストアップ。その中の1社がKMD社だった。2018年9月に交渉を開始。デュー・デリジェンス(資産査定)をわずか1カ月で終え、買収合意の発表に至った。

次ページ買収先は赤字続きだが…
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