着物警察が若い女性を目の敵にする歴史事情 商品の「高級化路線」を狙った着物業界の功罪

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おはしょりの長さなど、身長によって変わる。だいたい、おはしょりは明治の中頃にできたやり方だし。新たに作ったしきたりだから、着付け教室ごとに教えることが微妙に違う。そこが、人によって「私はこう教わった」「私はこう聞いている」「それは違う」……と揉める原因になる。

実は1970年代の中頃まで、ウールの着物はふだん着としてわりと着られていた。しかし着物業界が高級化に舵を切ったので、しだいに消えていってしまった。そしてやがて気がつけば、高級品も普及品も売れない状態に。市場規模は6分の1になってしまった。

もうおわかりだろう。(A)で育てられた人々→②着物の着方をチェックできる知識を持つ年配の女性、になるのだ。つまり「着物警察」予備軍。

そしていま、世の中の勝ち組は(B)の戦略をとった企業だ。ファッションだけでなく、たいていのジャンルでそうだ。(B)の価値観で育った若者→①着物初心者として外出する若い女性、となる。

そりゃ、両者はぶつかるわけだ。着物業界は着付け教室を展開することによって、熱心なファン層を作り出すことに成功した。そこまではすばらしい! ところが皮肉なことに、その熱心なファンたちが着物警察となって、今度は新たなライトユーザーの新規参入をつぶす役割を担ってしまったのだ。

戦後、ファッションの主流は洋服になった。和服=着物はしだいにマイナーな衣装になる。するとやがて、非主流派ではあるが「価値がわかる人にはわかる」という位置付けになっていく。

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着物に限らず、どんなジャンルでもメインストリームからはずれたものはしだいにそういう立ち位置になる。追いやられていつの間にかその場所にたどり着くケースもあれば、自ら進んでその場所を目指すケースもある。とりあえずの安住の地だ。せっかくその場所に立ちながら、やがて消えていくものも多い。「マイナー」「マニアック」「風変わり」「通好み」「異端」などと呼ばれて生き残ることもある。もっともうまくいった場合は「伝統」と呼ばれ、尊敬される。

いま着物は、「日本の伝統衣装」としてその位置にある。(A)で育てられた②の方たち、つまり着物警察予備軍は、その支持者でありファンだ。だから彼女らは「先に価値がわかった人」として、後輩には何かひとこと言いたい、伝えたい。アドバイスしたい。後輩が間違っていれば正してあげたい。よかれと思って。

かくして「着物警察」が誕生する。

藤井 青銅 作家・放送作家

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ふじい せいどう / Saydo Fujii

23歳のとき、第1回「星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家としての活動に入る。メディアでの活動も多岐にわたる。著作に『「日本の伝統」の正体』『幸せな裏方』などがある。

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