東北でさえ「低賃金」の外国人に頼り切る現実 企業や社会の維持に手前勝手はもう通じない

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東日本大震災から数カ月が経った2011年夏のこと。気仙沼市役所の窓口で取り乱し、涙を流すフィリピン人女性がいた。「私と娘は、これからどうなるの?」。

現在も気仙沼市内に暮らす三浦アンナさん。踊りを生業にしていた彼女は1990年代、気仙沼の店で踊って稼いでいたところ、客の男性にアプローチを受けて結婚。一女をもうけ、夫と義母の4人で暮らしていた。

夫と義母の遺体と対面したのは震災2日後のことだった。

「絶望的。私と娘は、これからこの地でどうやって生きていけばいいの……」。

身寄り頼りのない異国の地で、娘とともに生きていかざるをえないのだと現実を受け入れようとしていた矢先のことだった。仮設住宅に入居できると思い込んでいたアンナさんは、入居申請の手続きが済んでいないことを市役所の窓口で知り、気が動転した。

「なぜ入れない? どうやればいい? すぐに手続きを開始して!」

市はすぐにアンナさんの入居手続きをしたが、不安で仕方がないアンナさんはそれから毎日、市役所に通っては「大丈夫?」「ちゃんと手続き済んでいる?」と確認を求めた。今でこそ「窓口の人も大変だったでしょう、私が毎日のようにやってくるものだから」と思い出して笑うが、当時の彼女の必死さは想像に難くない。

事実上の「移民」は将来、日本で結婚して家庭を持つ

改正入管法では、建設と造船の2業種について家族帯同が可能で在留期間にも制限がつかない特定技能2号が新設される見通しだ。資格取得のための技能試験は2021年に実施予定のため、まだ少し先の話ではあるが、事実上の「移民」となる2号取得者の中には日本で結婚し、子をもうける人も出てくるだろう。

いつ起きても不思議ではないとされる首都直下型地震が起きたとき、外国人被災者を支えるサポート体制はできているのか。三浦アンナさんの体験はひとごとではない。

『週刊東洋経済』1月12日号(1月7日発売)の特集は「“移民”解禁」です。
野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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