東北でさえ「低賃金」の外国人に頼り切る現実 企業や社会の維持に手前勝手はもう通じない

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実習生の教育係を務める小野寺英昭さんがインドネシア人の実習生イコ・デューイ・マハリニさん(22歳)を筆者に紹介してくれた時の“かけあい”だ。また、ある時には「明日の作業着は全員水着だからな、いいな」と小野寺さんが言うと、イコさんが「わかりました、ビキニで来ます」と返す場面も。

「日本人と同じように、叱るときは全力で叱ってきた」と小野寺さんは話すが、そのかいあってか、実習生とも冗談を言い合える関係性を築けてきた。実習生として来日したイコさんに理由を聞くと、「家族に負担をかけずに大学に行きたかった。そのために3年間ここでがんばってきた」と言う。イコさんは今年インドネシアのジャワ島に帰り、大学入学を目指すそうだ。

技能実習制度の本来の目的は「技能移転」であって「お金を稼ぐこと」ではない。だが、現実にはお金を稼ぐことが主目的になっているケースが多い。労働力不足の穴埋めをしたい、あるいは低賃金で働かせたい経営者たちのニーズと、この点でマッチしてきたのが実状だ。

「低賃金で都合よく」にはしっぺ返しがくる

ただ川村会長は、「外国人労働者を低賃金で都合よく働かせようとしていたのでは必ずしっぺ返しがくる」と自戒を込めて話す。震災後、かわむらは社宅を6棟建て、実習生たちの生活基盤を整えた。法定額の賃金もしっかり支払ってきている。

社内共生への模索もあった。インドネシア人の多くはイスラム教徒。イスラム教徒はラマダンの月、日の出から日没にかけて飲食を断つ習わしがある。その教えに従い、朝食も昼食もとらない実習生がいた。場合によっては仕事に支障が出かねない。

ただ、「仕事に支障が出たら困るが、しかし、ここは日本なのだから日本のルールに従いなさいと言うのは逆効果のような気がした。自身の身体の調子に無理のない範囲でやるよう個々人に判断を任せた」と小野寺さんは言う。イコさんは「1年目は断食せず仕事を優先したが、仕事に馴れてきた2年目からは仕事とラマダンを両立させた」そうだ。

「外国人労働者に都合よく低賃金で働いてもらおうという手前勝手な発想ではダメ。経営者から意識を変えていかないと。気仙沼の男と結婚して子どもを産むフィリピン人の女性たちもいる。こういう人たちが、これからの企業や地域を担っていく。大切にしないと」(川村会長)。企業や社会機能を維持していくために日本人の覚悟が問われている。そう考える川村会長だから、人権を蔑ろにする経営者や、「移民政策は採らない」と建て前を言い続ける政府の答弁にいら立ちが収まらないのだ。

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