アートが伝える「戦争・テロ・自然災害」の世界 現代社会の大惨事と美術はどう向き合うのか

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ミリアム・カーン《原子爆弾 (04.02.1988)》1988年 水彩、紙(2点組) Miriam Cahn Atombomben / atom bombs (04.02.1988) 1988 Watercolor on paper (set of 2) Courtesy: Wako Works of Art, Tokyo 鮮やかな色模様の水彩画が、そのタイトルを知った瞬間、キノコ雲などまったく別のものとして現れる。善悪を声高に訴えるのでなく、静かにそこにあることで問いかける作品(写真:HILLS LIFE DAILY)

スウーン:美しい水彩が実は核爆発を描いたものというカーンの絵や、人々の潜在意識を描くようなヘルムット・スタラーツの不穏な絵画にも引きつけられます。私は潜在意識というのが人災の原因にも、それを軽減する力にもなると思う。

作品の感じ方は多様

津田:見る人の過去の体験によって作品の感じ方は多様でしょうね。トーマス・デマンドが紙で作った《制御室》で僕が思い出すのは、福島やチェルノブイリの原発事故現場を訪ねて感じた、かつて未来の象徴だったものの儚さです。

スウーン:なるほど。こうして美術を通じて話し合うことでも、発見がありますね。

(左)平川恒太《ブラックカラータイマー》 2016-2017年 アクリル、ガラスプライマー、油彩、電波時計 Hirakawa Kota Black color timer 2016-2017 Acrylic, glass primer and oil on radio-controlled clock 108個の電波時計に黒い絵具で福島原発事故現場の作業員を描いた。聴こえる針の音は、心音か「残り時間」か。なお関東の電波時計の標準電波は福島県双葉郡から送られている/(右)作品を注意深く覗き込むと、防護服姿の作業員たちの肖像画が(写真:HILLS LIFE DAILY)

スウーン:私は、表現に用いるメディア(媒体)と、メッセージとが密につながる作品が好きです。津田さんがジャーナリストとして美術に共感する部分は?

津田:ジャーナリストが数万字の言葉で複雑な現実を伝えようとするとき、優れた美術はその本質を瞬間圧縮して届けてくれます。だから、報道のような速報性や支援活動のような即効性はなくても、違う意味で「美術は速い」。もちろん各々に役割がありますが、僕が美術に惹かれるのはそうした力です。

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