「食」は味よりインスタ映え?になった平成 暮らしも仕事も遊びもITが変えた

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最初にアジア飯がブームになったのは、1980年代後半~1990年代だが、このときはアジア飯にほれ込んだ日本人主導で広がった。しかしこの数年、移民たちが本格派の店を次々と開いたことが、食べ歩き好きな日本人を刺激してブームになっている。特に多いインド料理店は、NTT東日本・西日本への電話番号登録件数が、平成19年(2007)~29(2017)年で、約7倍に増えた。

大久保のイスラム横丁(通称)。左手前はネパール中心の食材店

埼玉県の西川口が新チャイナタウンと呼ばれ、本格派のクセの強い味を楽しめる中国料理店が軒を並べるエリアや、横浜・いちょう団地のベトナム人街、西葛西のリトル・インディア、高田馬場のミャンマー人街など、アジア人が多く住む町では、飲食店や専門の食材店などが並んでいる。

日本人たちも喜んでそういう町に行き、本場の味を楽しむのは、海外旅行や在住経験のある人が増えたこと、グルメ化が進んで、多様な味を楽しむ人が増えたことがベースにある。人は元来、身の安全を守るため未知の味を警戒するが、グルメになると、未知の味を知ることに楽しみを見出すようになるのである。

情報革命で可視化された、食の貧困問題

一方で格差の拡大により、食の貧困問題もクローズアップされた。貧困は3つの局面で顕在化している。ひとつは情報の貧困。平成の人々は、外食や総菜が身近になり、カロリーは高いが病みつきになる食事の誘惑に晒されている。健康的な食生活を守るには、情報収集能力と分析力が必要な時代になった。

仲間の貧困という問題もある。子どもの「孤食」に注目が集まったのは、NHKが昭和57(1982)年に「なぜひとりで食べるの?」という番組を放送してからだが、平成に入ってからも、子どもの孤食はNHKや女子栄養大学などの調査で次々と明らかに なった。それは、家族の生活時間がバラバラなことが大きい。孤食で育ったからなのか、平成22(2010)年頃からひとりで食べる姿を見られたくない、と大学生がトイレで昼食をとる「便所飯」が報道され、食べている姿自体を見られたくない若者も登場した。

今、IT系企業や出版社などでは決まった昼休み時間を設けず、社員がバラバラに食事に行く風景が珍しくなくなっている。パソコンに向かいながら食事する人もいる。一方で、SNSでは仲間と食事した報告があふれる。共に食べる人がいるかいないか、多いか少ないかも可視化されやすくなった。

何より問題なのは経済格差である。こちらは、食事を満足にとることが難しい人たちに手を差し伸べる取り組みが、2010年代以降にクローズアップされたことで顕在化した。ひとつは全国に急拡大した、低料金で食べられる「子ども食堂」で、もうひとつは賞味・消費期限が近い食品をメーカーや流通企業が提供し、経済的に厳しい人たちに配る「フードバンク」である。現在は全国で77ヵ所の団体が活動している。

「フードバンクにいがた」では、市民・行政・企業・福祉施設が協同し、 食べ物が無駄なく消費され、誰もが食を分かち合える社会づくりをめざし活動している (写真:NPO法人フードバンクにいがた)

フードバンクは、世界的に問題になっているフード(食品)ロス問題ともリンクしている。日本では、まだ食べられるのに廃棄される食品が、世界全体の食糧援助の約2倍、年間約632万tにも及ぶ。新潟県では、子ども食堂、フードバンクと生産者の三者が連携して、これらの取り組みが進化し始めている。生産者がかかわるのは、規格外などの理由で産地で廃棄される野菜が大量にあるためである。

グルメ大国の陰で捨てられる食べものがあり、一方で食べるものに困る人たちがいる。しかし、インターネットなどを介して問題解決に向けた取り組みも広がりやすい。情報化社会が、人と人を結びつける希望が見え始めた平成の終わりである。

(東京人2月号の記事より一部抜粋)
 

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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