欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる

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ロンドンではすでに数年前に白人のイギリス人は少数派になっているのだ。2014年にイギリス国内で生まれた赤ん坊の33%は、少なくとも両親のどちらかは移民である。オックスフォード大学のある研究者の予測では、2060年までにはイギリス全体でも「白人のイギリス人」は少数派になると危惧されている。

スウェーデンでも今後30年以内に主要都市すべてでスウェーデン民族は少数派になると予測されている。国全体としても、スウェーデン民族は現在生きている人々の寿命が尽きる前に少数派になってしまうと推測される。

民族構成が変わるだけでなく、欧州諸国の文化的・宗教的性格も変容する。イギリス国民のキリスト教徒の割合は、過去10年間で72%から59%と大幅に減少し、2050年までには国民の3分の1まで減る見込みだ。

2016年にイギリスに生まれた男児のうち、最も多かった名前は「モハメッド」であった。

同様に、ウィーン人口問題研究所は、今世紀半ばまでに15歳未満のオーストリア人の過半数がイスラム教徒になると予測している。オーストリアは、それ以降、イスラム国家になる可能性が高いといってもいいだろう。

欧州社会を統合していたキリスト教の信仰は風前の灯火

著者は、欧州諸国でイスラム教徒の影響力が増大すれば、宗教や文化が大きく変容するだけでなく、政治文化も変わってしまうと懸念する。欧州が伝統的に育んできた言論の自由や寛容さが失われてしまうのではないかというのだ。

従来、欧州の知識人層は、移民出身者であっても、欧州で長年暮らすうちに自由民主主義的価値観になじみ、それを受容するはずだと想定していた。しかし、実際はそうではなかった。言論の自由や寛容さ、ジェンダーの平等などの価値を共有しようとはしない者は決して少なくないと著者は述べる。

たとえば、欧州ではイスラム教徒に対する批判を行うことはすでにかなりハードルが高くなっている。批判者が「人種差別主義者」「排外主義者」などのレッテルを貼られ、社会的地位を失いかねないからである。イスラム教徒の利害を守る圧力団体が欧州各地で数多く組織化されているという。あるいは、シャルリー・エブド事件など、イスラム教に不敬を働いたという理由で襲撃される事件もさほど珍しくない。

伝統的に欧州社会を統合していたのはキリスト教の信仰である。近代以降は、キリスト教的価値観が世俗化されたものとして「人権」などの自由民主主義の原理がそれに取って替わっていると考えられることが多かった。

移民の大規模な流入により、世俗化され、自由民主主義という原理によって結び付けられた欧州という前提が脅かされつつある。キリスト教の伝統、あるいは自由民主主義に支えられた基盤が掘り崩され、いわゆる欧州文明がこの世から消え去ってしまうのではないかと著者は大きな危惧を抱くのである。

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