「瓶のふた開け」にも困る老後を支える人たち タニタ食堂を手がけた前会長が今熱中する

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片付けたからいいでしょ、じゃない。お金払ってもらってなんぼじゃないんだと。スタッフのコミュニケーションの質がこの事業の肝。だからお客さんとずっとつながっていられる。リピート率は8割を超えている。僕が事務所を訪ねたときも、お客さんからお菓子が届けられていた。「このビールどうしたの?」って聞いたら、「差し入れです」って。

「ちょっとした困りごとは生活のささくれだけど、放っておくと傷になる」

のちに地域包括支援センターといった福祉機関とも連携するなど、人々の生活を支えようとする姿勢に好感が持てた。谷田さんの現場での体験から湧き出たアイデアをもっと聞きたくて、御用聞きがベースにしている高島平団地内に当時あった事務所も訪ねた。

三男昭吾さんはその後、御用聞きの取締役として半年間活動している。息子もろとも、日本の未来を支えるこの事業に傾倒していった。

個人主義の時代だからこそ

依頼者にとっては金銭に代えがたい。そういうサービス。いまは個人主義でしょう? 他人のことはかまわない時代。古市君がやらなかったとしても、必要なサービスです。僕も後期高齢者ですからね(笑)。依頼された方の心情がよくわかる。だからこそ、根付かせたいと思った。

谷田さん自身、人々の健康的な未来を支える事業展開をしてきた。
タニタの前身である「谷田賀良倶商店」が1923年創業時に手掛けたのは、実はシガレットケース。戦後にパン食が広まると同時にトースターの製造に乗り出すと、1959年に日本初の家庭用体重計「ヘルスメーター」を開発。1992年に販売した家庭用体脂肪計が世界のトップシェアになると、タニタ食堂、レシピ本と続けた。

「(谷田)大輔さんと初めてお会いしたとき、衝撃でした」

古市さんはそう言って振り返る。地域が崩壊したなか、高齢者の生活をどうするか。街をどう再生するか。さまざまな課題を口にする古市さんに向かって、谷田さんはこう言った。

「マイナスをゼロにすることだけに目がいくと、いいものは生まれない。それがちょっとプラスになるとそこで止まってしまう。みんなが笑顔になれる事業のほうが、長く続くよ」

ビジョンつくりをしよう、作りなおそうと古市さんに話した。

「僕は最初、昔の御用聞きをイメージして、それを再構築しようとしていた。自由で、便利で、役に立つサービスじゃないかと。でも、大輔さんに、ビジョンが大事だと言われてハッとしました」

モノを売ったらいいんだという以上のビジョンが、(タニタの)体重計や脂肪計にもある。量ったからよいではなく、やはり健康な体にするにはどうするか。食事も大事だ、というのが頭の中にあった。それと同じで、御用聞きも、もうちょっとレベルの違うコンセプトにしていこうと、ぼくは彼の意見を整理しただけ。彼のほうが会話の重要性を僕に熱く語っていた。すでに土台はあるのだから、そこを軸にしていけばいいと伝えました。

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