日本人が「フェルメールの価値」を語れない訳 「感性」に頼らない美術鑑賞の秘訣とは

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知識をベースにした西洋美術鑑賞を、フェルメールを例にとって具体的に考えてみよう。彼の作品でその技術とともにキーワードとなるのは、「カメラ・オブスキュラ」と「豊かなオランダ市民社会」だ。

「カメラ・オブスキュラ」とは、ピンホール現象を利用したカメラの原型のようなもの。これをフェルメールは制作時に用いたと考えられている。それまでの芸術は、キリスト教の教義布教のため、ドラマチックな構図やデフォルメされた人体の描き方が主流だった。しかし、「カメラ・オブスキュラ」を用いることで、ありのままの光景をそのまま写し取ったような写実的な作風につながったのだ。

フェルメールの価値が高い理由

「豊かなオランダ市民社会」は、フェルメール作品のモチーフと、作品サイズに影響している。当時のキリスト教はその腐敗から、カトリックとプロテスタントに分裂し、教会の権威は崩れつつあった。そんな中、華美なものを避けるプロテスタント国だったオランダは、海洋貿易で栄えるようになった。

その結果、カトリック教会が求めるような派手な宗教画よりも、人々の日常的風景が描かれた質素な風俗画が好まれるようになった。しかも、教会に飾る巨大なサイズではなく、市民が自宅で鑑賞できる小さなサイズのものが求められた。

こうした美術史的な「革命」と、フェルメールの、神業ともいえる巧みな光の表現と相まって、現代の絶大な評価につながっている。

「西洋美術鑑賞には知識が必要」というと、非常に難しそうだが、ざっくりとしたもので十分だ。美術鑑賞のビギナーには、ファーストステップとして、美術展のチラシやホームページをチェックしてみるだけでもいいだろう。

次ページ行く前に「目玉作品」を押さえておく
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