強さの源泉--開発者という名の壮大なる参入障壁《特集マイクロソフト》

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ゲーム、カーナビ制したマイクロソフトの戦術

マイクロソフトが開発者コミュニティを味方につけることにより成功した事例は、ウィンドウズにとどまらない。

ソニーは「プレイステーション」「プレイステーション2」において、3Dゲームの開発を強力にサポートすることで開発者たちを味方につけ、任天堂一辺倒だったゲーム機市場を引っ繰り返してみせた。しかし現世代では、苦戦する「プレイステーション3」を尻目に、マイクロソフトの「Xbox360」は優れたゲームタイトルを集めている。圧勝とまではいかないものの、ソニーの牙城をえぐり取ることに成功した。

マイクロソフトはハードウエアの力でソニーから市場の一部を奪ったのではない。得意のソフトウエア開発環境を徹底的に鍛え上げ、ゲームソフト開発者たちの幅広い支持を得ることができたからだ。Xboxではそれを目指しながらも整備が間に合わなかったが、2世代目の360にして、ソニーに対する差異化を明確化できたのである。

組み込みOSとして苦戦を強いられてきたウィンドウズCEも、今では飛躍している。現在、カーナビゲーションシステムのOSとしては、ウィンドウズCEが主流。インターネット通信の融合や高機能化などで複雑化したカーナビの開発プラットフォームを整備し、マイクロソフトは勢力図を大きく塗り替え、シェアゼロの段階からわずか数年で寡占状態にまで持ち込んでいる。

話をクラウドコンピューティングに戻そう。この分野でマイクロソフトと同様のクラウドを構築するツールを提供している企業はあるだろうか。実はアジュールのように、開発環境と実行環境の両方を組み合わせ、統合的な開発者向けサービスを提供している企業は他にない。

クラウドコンピューティングのプラットフォーム提供企業としては、グーグル、セールスフォース・ドットコム、アマゾンなどがマイクロソフトのライバルとして挙げられることが多い。これらの企業は、それぞれが展開するサービスをコンポーネントとして利用するためのインターフェース仕様を公開し、開発者が独自のクラウドアプリケーションを開発できるようにしているからだ。

しかし、現時点において彼らが提供しているのは、それぞれの企業が得意とする、そして収入につながる分野のサービスのみだ。多様な分野にわたるサービスを統合的な開発環境との組み合わせで提供している例はない。バルマーCEOは一時期、グーグルがマイクロソフトの中核部分に挑戦してくると警戒していたようだが、グーグルは正面衝突による消耗戦を意識的に避けている。

言い方を換えれば、そもそもこれらの企業はマイクロソフトと競合していないのだ。何しろ、マイクロソフトはグーグルのように広告モデルの価値を上げることにも、セールスフォースのように自社のサービスを販売することにも、アマゾンのように自社で流通させている商品の売り上げを伸ばすことにも本気では興味を持っていない。

マイクロソフトの目標は、あくまで「マイクロソフトの提供する環境の上でアプリケーションを動かしてもらう」ことだ。そこを突き崩す挑戦がないかぎり、マイクロソフトの生態系と共存する「尊敬すべきライバル」(バルマーCEO)だ。逆に、ライバル企業がアジュール向けに自社のサービスを組み込むためのコンポーネントセットを提供する可能性はあるが、それはマイクロソフトの手の平の上での出来事にすぎない。

マイクロソフトが不定期に開催しているソフトウエア開発者向けのカンファレンス「PDC」は、有料イベントであるにもかかわらず、毎回2000人以上もの開発者が世界中から集まり、マイクロソフトの提供する環境でビジネスを営むための材料を探しにくる。

基調講演では席を確保できず、通路に座り込んでまで耳を傾ける人たちも多い。ライバル不在の中で、マイクロソフトは“いつもの”勝ちパターンを歩み始めている。


ゲイツが後継に指名した帝国の将来を担う3人

ゲイツ氏は自らの後継者としてレイ・オジー氏を選んだ。しかしオジー氏は現場監督のようなものだ。マイクロソフトの将来を担う現場レベルのキーマンとして別に3人を指名した。1人はジェイ・アラード氏。Xbox360の開発環境XNAを苦難の末に完成させ、念願のゲーム機事業を成功に導いた立役者である。2人目はボブ・マグリア氏。ビジュアルスタジオをはじめとする開発ツールの改善に貢献し、ウィンドウズサーバーのビジネスを確たるものに押し上げた。データセンター分野での成功も彼の功績といえる。しかし、最も将来を期待されているのは、スティーブン・シノフスキー氏ではないだろうか。彼はエクセルの開発者としてキャリアを過ごし、その後、オフィスを単なるアプリケーションセットからオフィス業務のワークフローを支えるプラットフォームに昇華させた。現在はウィンドウズ7の開発も任されており、開発方針とプロセスを大胆に変えることで、成功を収めつつある。

(週刊東洋経済)

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