強さの源泉--開発者という名の壮大なる参入障壁《特集マイクロソフト》

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現在の開発ツールで「クラウド」を実現

そしてマイクロソフトは、クラウドコンピューティングという新しい潮流の中でも、同じ勝利の方程式を描こうとしている。

クラウドコンピューティングとは、インターネットで動作するサービスを組み合わせることで、何らかの付加価値を持った結果を得る考え方のこと。サービスを利用するユーザーは、インターネットの向こう側で起きていることを意識せず、高いパフォーマンスのアプリケーションを利用できる。グーグルの提供するグーグルドックスやGメールなどのサービス群が、クラウドコンピューティングの象徴である。

マイクロソフトが不定期に開催しているソフトウエア開発者向けのカンファレンス「PDC」。10月28日、マイクロソフトのチーフソフトウエアアーキテクトを務めるレイ・オジー氏はこのカンファレンスで、「ウィンドウズアジュール」と名付けたクラウドサービスの実行・開発基盤を提供すると発表した。

ウィンドウズという名前は付いているが、これは市販、あるいはOEMされる新しいOSではない。クラウドサービスを開発、運営するためのプラットフォームだ。その中身はデータセンターを構成するウィンドウズサーバーとマイクロソフト製ミドルウエアで構成されている。クラウドサービスを提供するのは、マイクロソフト自身、あるいはマイクロソフトのパートナー企業だ。

アジュール上で動くアプリケーションの開発には、もちろんビジュアルスタジオを用いることができる。「クラウドに対応するには、グーグルが開発に採用しているパイソンなどを勉強しないといけないのだろうか」と不安に感じていた開発者もいるだろうが、アジュールの発表により、この動揺はピタリと収まった。

マイクロソフトがアジュールの実行環境で用意する構成要素は、基礎となっているウィンドウズサーバーをはじめマイクロソフト製サーバー製品である。このため、マイクロソフトが7割のシェアを持つデータセンター向けのアプリケーションを、容易にアジュールへと移植することが可能だ。グーグルなどの“宣伝”により「クライアント/サーバー」と「クラウドコンピューティング」の間にあるかと思われた断絶を、いとも簡単になくしてしまった。

たとえば、ある顧客向けに開発したアプリケーション、あるいは自社向けに開発したアプリケーションをアジュールの上でパッケージ製品として実装し直せば、自社でクラウドサービスを提供するデータセンターを持っていない企業でも、簡単にクラウド向けのサービスを開始することができる。開発者たちがこれまでと同じスキルを用いてサービスを運用できるアジュールに魅力を感じるのは当然だろう。

コンピュータの歴史と文化を振り返ると、そこには強い主張を持ったアクの強い人物が何人も名を残している。しかし、ソフトウエア開発の中心を担っているのは彼らではない。ほとんどすべての開発者は“イデオロギー”ではなく“ビジネス”としてソフトウエアを作っている。彼らが欲しているのは、稼げる開発プラットフォームだ。

可能なかぎりシンプルで開発しやすく、安全で充実したツール群と開発環境がそろっていることに加え、ビジネスとしての効率を求めるには、その開発フレームワークに慣れた開発者が確保しやすいことも重要になってくる。そのことをマイクロソフトの経営中枢は熟知している。

最終的にソフトウエアのプラットフォームからユーザーが得るものは、何らかの目的に利用されるアプリケーションだ。そのアプリケーションを生み出す開発者のコミュニティを味方につければ、成功への道を歩むことができる。マイクロソフトの強さは、まさにそこにある。

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