「父になる夢」を捨てなかった58歳男性の執念 最初は「国際結婚」に抵抗があったが…

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バツイチだったが、俳優のような精悍な顔立ちで、スーツもおしゃれに着こなしている。加圧トレーニングで鍛えているという体には無駄な脂肪がなかった。

“彼の見た目と年収ならば、苦労することなくお見合いが組めるだろう”。最初はそう踏んだのだが、面談を進めていくうちに、“ああ、彼もなのか”と、ため息が出た。

「どうしても子どもが欲しいんです。最初の結婚では子どもを授からなかったから」

そして、井崎は最初の結婚がなぜ失敗したのかを語り出した。

井崎がまた会社勤めをしていた39歳のとき、知人の紹介で知りあった杉本亜里沙(35歳、仮名)と結婚をした。2人とも、子作りをするなら“待ったなし”の年齢だった。

新婚生活がスタートすると、亜里沙は排卵日をチェックするために体温をつけ出し、まずは最も妊娠しやすい時期に性交をする“タイミング療法”を試みた。しかし、なかなか妊娠はせず、あっという間に1年が経ってしまった。

「不妊治療に切り替えようかと話しているときに、彼女の兄嫁が不妊治療の末に38歳で出産をしたんです。そうしたら、生まれたその子には障害があった。高年齢出産にそうしたリスクが高いのは、私たちも知っていました。それが身近なところで起きたので、彼女はリアルな現実を突きつけられた気持ちになったのでしょう。それ以来、 『不妊治療をするのは嫌だ。子どもはいらない』と言い出したんです。高年齢で出産することが怖くなってしまったようでした」

一方で、井崎は子どもをあきらめることはできなかった。「頑張るだけ頑張らないか。妊娠したらまずは検査をすればいいじゃないか」と食い下がったが、彼女は聞く耳を持たなかった。

子どもを作る話をすると、夫婦の間に不穏な空気が流れ、険悪なムードになり、ケンカが絶えなくなった。

「そこから、だんだんと気持ちもすれ違うようになっていきました。彼女は保険会社のセールスレディをしていたのだけれど、会社を退社して、心理カウンセラーになるために学校に行き出しました。そこからどんどんスピリチュアルな方面にのめり込んでいって、土日はスピリチュアル関係のセミナーに行くようになりました。家事もやらなくなり、食事を一緒にすることもなくなり、結局離婚になりました」

結婚生活は、5年足らずで終わった。

3歳の男の子のシングルマザーと出会った

離婚後、井崎は勤めていた会社を辞め、営業コンサルタントとして独立した。起業は思ったよりも大変で、まずはその仕事を軌道に乗せようと奮闘しているうちに、4年、5年とあっという間に過ぎてしまった。

「50歳が見えて、このまま生涯独身で過ごすのは寂しい。結婚して、今度こそ、子どもを授かりたいと思ったんです」

そこで、結婚相談所に入会をし、3歳の男の子のシングルマザーだった生田英子(38歳、仮名)と出会った。一度出産を経験しているのなら、子どもも授かりやすいのではないかという目算もあった。

相談所を退会後、入籍をする前に3人で一緒に暮らしだしたのだが、その生活は描いていた家庭像とは大きくかけ離れたものだった。

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