その中の一人、コウ(39歳、仮名)と、お付き合いに入った。井崎は、彼女をとても気に入り、結婚を真剣に考えるようになった。コウもまんざらではない様子で、交際は順調に進んでいるかのように見えた。
2カ月が経った頃、井崎が将来を見据えた具体的な話をコウにした。自分の事務所と自宅を見せ、年間どれだけの収入があるのかを話し、「結婚しても苦労はさせないので、子どもを授かりたい」と告げた。
ところがそのデートの直後に、コウの事務所から“交際終了”の連絡が来た。
交際終了の理由は、こうだった。
56歳の自営業者が、あと何年仕事を続けられるのかわからない。井崎には80を超えた父親がいたので、その父の介護が目前にある。さらに、数十年後には、彼の介護も待っているだろう。そうなると、子どもを授かったとしても、自分の人生は子育てと介護に追われて、苦労するのは目に見えている。
彼女が言っていることは、もっともだった。
国際結婚には「2種類」ある
コウにフラれた後の井崎は、端から見ても気の毒なくらい落ち込んでいた。しかし、このどん底の経験が、彼をもう1つの国際結婚へと奮い立たせる起爆剤となった。
結婚相談所においての国際結婚は、2つのパターンがある。
1つは、日本に住んでいる在日の外国人とする国際結婚。もう1つは、男性が海外に渡り、そこで日本男性との結婚を望む女性と見合いをする国際結婚だ。
在日の場合は、生活のベースが日本にあるため、日本の暮らしにも慣れているし、こちらに知り合いや友達もいて、感覚や考え方が日本人に近づいている。よって、男性の年齢、経済状況、将来的に抱える介護の問題など、よりリアルにとらえてしまう。
一方、フィリピン、タイ、ベトナムなどアジア圏の農村部の女性は、結婚をどこか“生きていくための手段”だと捉えている。明治、大正、昭和初期の頃の日本女性がそうであったように、ある程度の年齢になったら結婚という制度に身を置くことが当たり前。写真を交換すれば結婚が成立していた昔の日本女性の感覚に近いものがある。
日本の男性に経済を支えてもらい、豊かな日本で暮らし、ゼロから愛情を育てていき、子どもを産んで家族になっていく。それを望んでいる現地の女性たちがいるのだ。
在日の中国人女性、コウにフラれた井崎は、フィリピンに渡り、現地の女性5人とお見合いをし、現在の妻となるマリア(27歳、仮名)との結婚を決めた。
あれから1年が経った。58歳になった井崎は、来年の春に父になる。
彼は、自身の国際結婚をこう振り返った。
「最初は国際結婚に抵抗がありました。でも、今は幸せです。文化の違いはありますが、マリアは純真で真っ直ぐ。また、日本に友達が大勢いる在日の人たちとは違って、来日した当初、日本で頼れるのは私だけだった。2人で1から夫婦の生活を築いてきたような感覚があるんです」
親子ほどの年齢差の国際結婚に関しては、賛否両論があるだろう。しかし、他人に何を言われようが、一度は結婚に失敗し、再婚には右往左往しながら悩み、傷つき、最後に自分で選択した人生だ。これから先何が起ころうとも、そこに後悔はないはずだ。
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