携帯電話OSの覇権をかけた熾烈な闘争《特集マイクロソフト》
勝負の分かれ目はソフト開発者の支持
マイクロソフトはジワジワと地盤を固めつつある。しかし、決して楽観はできない。ライバル陣営も、それぞれの特徴を武器にして通信キャリア、端末メーカーへの食い込みを図っている。
目下のところ最大のライバルは首位のシンビアンだ。「シンビアンは、従来からの携帯電話開発者コミュニティから高い支持を得ている。すでに開発者も使い慣れており、最も強い基盤を持っている」(ガートナー・田崎氏)。
シンビアンは日本では94機種に搭載(11月時点)されており、累計4000万台を出荷している。シンビアン搭載端末が即スマートフォンとは言いがたい面もあるが、汎用OSとしては業界トップであることは間違いない。
OSを軸にしたプラットフォーム間競争の激しさを見越して、筆頭株主のノキアはシンビアンを完全子会社化。09年には非営利団体のシンビアンファウンデーションという新組織になる予定だ。この決断は業界を驚かせたが、ノキアはシンビアンを世界標準OSとして広めることにより、異なるメーカー端末間でのアプリケーションやサービスの互換性を高めようという狙いがある。
新組織は、09年上期に活動を開始、参加企業にOSを無償で提供した後に、10年にはオープンソース化を目指すという手順で、グローバルなエコシステムを形成する計画だ。
ドコモ、シャープ、富士通などがすでにシンビアンファウンデーションのメンバー。そこに新たに半導体メーカーのルネサステクノロジ、ソフトバンクモバイルが加わるなど、日本企業の参画も多い。
これまではバラバラだったユーザーインターフェースを統合し、異なる端末間での連携を容易にするプラットフォームとなる点が売り。ドコモ常務理事の三木俊雄氏は「新しいプラットフォームでグローバルな機能が共通化し、メンバーが新しいソフトウエアをどんどん提供することで成長していく。魅力ある新しい端末がタイムリーに投入できる」ことに期待を寄せる。
が、市場の大きな構図は、これまで閉じられていた携帯電話の世界に、パソコン、インターネット業界の勝ち組企業が流れ込んでいく、というものだ。その代表的企業は、マイクロソフト、アップル、グーグルである。「パソコンでの競争が携帯でも続き、OSの競争はアップル、マイクロソフト、グーグルの3社に集約する可能性が高い」(日本通信・福田尚久常務CFO)。
これまではパソコン向けのソフトウエアを開発してきた多くのソフトウエア開発者が、新しいビジネスチャンスを求めて、スマートフォンに入ってくる。そうなると、パソコンの世界で圧倒的な開発者コミュニティを持つマイクロソフトの優位性は抜きんでている。特にビジネス向けのアプリケーションでは、他を寄せつけない。
アイフォーンに搭載されているのはマックOS。やはり既存のマック向けの開発者コミュニティが、アイフォーンの生態系を構成する重要な核といえるだろう。さらに、アップルはソフトウエア開発キットを公開。ソフトのダウンロード販売もアップルが代行している。ソフト開発と流通を活性化させるためだ。
グーグルのアンドロイドは端末メーカーからの受けがいい。「開発のしやすさから、新規参入するメーカーの多くはアンドロイドを選ぶだろう」(ガートナー・田崎氏)。しかし、端末の魅力を増すためには開発者の支持も必要だ。市場で稼働するアンドロイド端末の台数が増える中で、同時に豊富なソフト群を生み出せるかどうかが、成功のカギを握る。
戦いのアドバンテージは、パソコン界で圧倒的な開発者コミュニティを持つマイクロソフトにあることは間違いない。が、グーグルとしてはこの未開の地を切り開くことにより、マイクロソフト支配に風穴を開けたいとの野望もある。スマートフォンOSのシェアをめぐる戦いは、苛烈を極めることになる。
(週刊東洋経済)
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