年10億円超の横領もある「成年後見人」の本質 親族後見人による不正が問題になっている
成年後見制度は判断能力が衰えてから後見人等(後見人・保佐人・補助人。以下同)を選任する「法定後見」と、判断能力があるうちに自ら任意後見人を選んで契約を結ぶ「任意後見」の二つがあります。法定後見制度では、家庭裁判所の審判により本人に最適だと判断した後見人等が選任されます。
「制度開始当初は親族が後見人等に選任されるケースが大半でしたが、昨今は親族よりも第三者が選任される割合の方が多くなっています。第三者とは主に弁護士、社会福祉士などの専門職。特に親族後見人による不正(横領など)が問題になっていることから、親族後見を希望しても資産が多い人は第三者が選任される傾向にあります」(牧野先生)
判断能力が衰える前に利用を検討する
後見人等の選任には不服申し立てはできません。面識のなかった人に代理をされるのは心理的困難が伴います。また、法定後見は後見・保佐・補助がありますが、申し立ての多くが後見であることも問題だといいます。
「後見よりも保佐・補助の方が本人の意思が反映されやすい。また任意後見なら本人が代理人を事前に決めることができます。任意後見の利用者が法定後見制度が必要になった場合は、法定後見を利用することもできます。
裁判所への申し立ては親族が行うことが多いのですが、最近は身寄りがないご高齢者のため市区町村長による申し立てが増えています。制度を知り、判断能力が衰える前に利用を検討するなど早めに活用することが大切です」(牧野先生)
【ケース1】
重度の認知症のAさんは介護してくれていた妻と死別し、特別養護老人ホームへの入居が必要に。身寄りがなく、本人による契約締結が難しいため、市長が後見開始の審判の申し立てをしました。社会福祉士が後見人に選任されて入居契約を行い、Aさんは特別養護老人ホームに入居できました。
【ケース2】
Bさんは一人暮らし。買い物で支払い額が分からなくなるなど物忘れの症状が進行し日常生活に支障が出てきたため、長女と同居して自宅を売却することに。そこで長女が保佐開始の審判を裁判所に申し立てました。長女が保佐人に選任され、代理権(売却等の手続きを代行する権利)も認められたため、売却の手続きができました。
【ケース3】
Cさんは長男の留守中、訪問販売員から布団セットなど必要のない高額商品をたびたび購入。長男は補助開始の審判を申し立て、長男が補助人に選任されました。同意権(本人の購入等の意思に同意すること)も認められ、Cさんが長男に断りなく高額商品を購入した場合、長男が契約を取り消せるようになりました。