「拒食症の母」の首を絞めた25歳女性の苦悩 搾取し続けてきた毒母から逃げ出したい

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車で移動できるようになったので、時給が高かった今の職場に応募した。立ち仕事ではなくなって、ノルマもないので仕事は断然に楽になった。一時期は風俗に土日全部出勤して月20万円くらい稼いだこともあったが、耐えられなくなることはたびたびだった。

「母親は家ではお金がない、苦しいとか。あなたダブルワークしているなら、もっとお金を出せとか。そんな話しかしません。本人は毎日、お菓子とかアイスとかたくさん買って悠々自適です。1年くらい前から母親が死なないかって思うようになりました。拒食症はまだ続いていて、1週間アイスしか食べないような状態。体重は25キロないと思います。だから死なないかなって。今日も帰って母親が死んでいたらラッキーだなって、そう思っています」

家では、母親と話はしない。恋人に借金をさせてからだんだんと距離ができて、母親と一切会話をすることがなくなった。しゃべることはお金のことだけ。

それから母親は、自分自身を悲観するようになった。あんなクズみたいな男と結婚したことが間違い、あんたみたいな子どもを産んだことが間違い。あんたなんて捨てればよかった。そうしたら、お母さんの人生はもっと幸せだった――みたいなことを、ひたすら吐き捨てている。

そして10日前、殺意をもって首を絞めてしまった。

母親を捨てることを決めた

「この10日間、すごく考えて、母親を捨てることにしました。銀行口座を新しく作って、家を出ます。母親は生きていけないでしょうが、もう知ったことではありません。隣の県に安いアパートを見つけて、2、3日中に契約します。家を出て、母親と断絶します。もう、一生会うつもりはないし、死んじゃっても葬式にも行きません」

ここから50キロ以上離れた隣の県に住んで、現在の職場に車で通うという。職場からは了承された。母親は地方で出稼ぎする父親が面倒をみるか、生活保護か。手取り18万円、家を出れば、性風俗のアルバイトをしなくても生活することはできる。ずっと嫌だった風俗のアルバイトからも足を洗うと決めた。

「子どもの頃から母親と共依存みたいな状態だった。時間がかかったけど、やっと目が覚めました。30歳まであと5年くらい、隣の県でひっそりと生きて、それでたぶん自殺します。もう、自分に何もないことはわかっているし、風俗なんてしてしまったので結婚とかも考えられない。だから、それでいいです。母親と絶縁するだけで幸せはないけど、苦しさはなくなります」

毒母との25年間に及ぶ、共依存と憎しみ、絶縁の決断。そして、30歳になる5年後に本当には自ら命を絶つつもりなのだろうか。自殺の話には触れずに、母親との絶縁の決断には大きくうなずいた。なんとか逃げ切ってほしい。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『私、毒親に育てられました』(宝島社)、『同人AV女優』(祥伝社)、『パパ活女子』(幻冬舎)など多数。Xアカウント「@atu_nakamura」

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