各種報道によると、経産省は「報酬が高すぎる」との批判を受けて、11月に一転して、産業革新投資機構に報酬について方針転換を伝えた。田中社長は報酬案の変更には応じたが、設立時の合意とは異なる要求が含まれていたため、経産省からの方針転換には応じなかったという。
このいきさつを、なんと異例なことに、経産省がニュースリリースとして12月3日に発表したのだ。「経済産業省は、平成30年11月28日(水曜日)に株式会社産業革新投資機構から申請のあった、『平成30事業年度産業革新投資機構予算変更の認可について(申請)』について、12月3日付けで認可しないこととする決定を行いました。」というもの。加えて、世耕弘成経産相は12月4日、自らの監督責任を問い、大臣給与を1カ月自主返納すると発表した。ただ、産業革新投資機構と経済産業省の対立は根深いようで、2019年度予算の1600億円もの追加出資の予算要求を、経産省は取り下げる検討に入った。
こうして両者の対立は修復不可能な事態に至り、産業革新投資機構の民間出身の取締役は全員辞任する意向を固めた。
この事案は官民ファンドのあり方について大きな問題提起となる。官民ファンドといえども、株式会社形態をとるファンドは会社法が適用され、民間企業と同じ企業統治(コーポレート・ガバナンス)が求められる。しかし、大株主は日本政府(財務相)。株主たる政府として官民ファンドにどう関わるか、設立されてから今に至るまで、きちんとした整理がついていないことが今回の事案で浮き彫りとなった。
一律的に高い低いは、決められない
企業統治がしっかりした民間企業なら、株主(の代理)が経営責任者に直接、報酬の多寡について話をすることは通常ありえない。しかし、今回は経産省側から田中社長に報酬の多寡について直接提案をしている。産業革新投資機構には、設立当初から報酬委員会が設けられており、本来はそこで決められるものであって、株主として不服があるならば、株主として正式な手続きを経て提案したり、株主総会で議論したりすべきものだ。そうした統治の手続きがきちんと確立していないことが報酬の多寡以前の問題としてある。
また、官民ファンドの経営者としてプロの民間人を招聘するからには、しかるべき報酬を出さなければ、優秀な経営者がその任に就いてくれないという可能性がある。それなら経営者の権限と責任に応じた報酬体系を考えるべきだ。単に一律的に、独立行政法人や官僚機構など他の政府関係の組織の報酬と比較し、決めるべきものではない。大臣の給与より高くしてはならないとか、事務次官並みならいいとか、そういう次元で決めるべきではない。
これらは官民ファンドに存立意義があることを前提とした企業統治の課題といえる。そもそもの問題として、そうした官民ファンドが必要なのかという疑問に、しっかりと国民に向けて責任ある答えを示せなければ、その意義はない。産業投資は、補助金ではなく、出資という形態をとった財政政策の一手段である。民間でのリスクテイクが不十分というのが、今のところの官民ファンドの意義の1つとなっている。今後、官民ファンドの意義を政府や主務官庁がどこまで国民に納得できる形で説明できるかが、問われてくるだろう。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら