産業革新投資機構、「役員大量辞任」の衝撃 官民ファンドvs経産省で問う国の関わり方

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その動きに追い討ちをかけたのが、2018年4月に出された「官民ファンドにおける業務運営の状況について」と題した、会計検査院の報告だった。産業革新機構を含む14官民ファンド(16法人)について、投資損益を調べたところ、2016年度末時点で全体の4割強にあたる6つが損失を抱えた状態になっていることが明らかとなった。これで官民ファンドのあり方を見直す機運が高まった。

この会計検査院の検査報告以前から、産業革新機構は分割新設されることが決まっていた。それが官民ファンドが乱立したことによって、間接部門の経費が過大になり人材確保も難しくなっている点で、改組のあり方に影響を与えたといえる。

そうした背景もあって産業革新投資機構は2018年9月にスタートを切った。社長には三菱UFJフィナンシャル・グループの元副社長で、買収した米銀のトップを務めるなど国際派として知られる田中氏を起用。プロの経営者にファンドを運営してもらい、成功した暁にはしかるべき報酬を与えることも当初は視野に入れていた。

産業革新投資機構はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)など革新的な分野に投資して新規事業を創造したり、「ユニコーン」と呼ばれる企業価値の高い非上場企業にも資金を供給したりすることをもくろんでいる。目下予算編成が佳境に入っている2019年度予算で、経産省は産業革新投資機構の投融資規模を拡大させるため、必要な政府出資の積み増しなどに1600億円の予算要求をした。

予算と株主は財務相、所管は経産相

この予算から官民ファンドの複雑な成り立ちが浮かび上がる。政府から官民ファンドへの出資は、当然ながら予算の裏付けがなければできない。その予算は何か。

国民が納める税金が裏付けだと、出資が毀損したら、税金が水の泡と消えてしまう。さすがに大切な税金をそうしたリスクテイクには使えない。そこで国の予算制度では、財政投融資にそうした機能が果たせる仕組みを設けている。それは産業投資と呼ばれる。

もとをたどれば産業投資は、アメリカが戦後復興の支援として拠出した資金にさかのぼるが、近年では電電公社や専売公社の民営化に伴い、NTTやJTの株式を売却して得た資金などが原資となっている。その資金は現在、財政投融資特別会計投資勘定で管理している。特別会計であれ、その予算は、国会の議決を経なければ執行できない。

前身である産業革新機構をはじめとする官民ファンドの多くに対し、政府からの出資金(株式会社形態のファンドは株式)は産業投資から出資され、財政投融資特別会計投資勘定において管理されている。財政投融資特別会計は財務省の所管。産業革新投資機構の株式の約95%は政府出資で、その株主は財務大臣である。

一方、JICの業務を所管しているのは、経済産業省。ここに官民ファンドの予算と統治が、省庁縦割りになっていることが浮かび上がる。産業革新投資機構の場合、予算と株主は財務相だが、業務を司る主務大臣は所管する経産相なのである。

今回の産業革新投資機構トップへの高額報酬は、「政府出資の株式会社なのに民間大企業並みに報酬を出していいのか」という批判に端を発している。しかし、もともとはプロの経営者を招聘して、官民ファンドの再構築を図るつもりだったから、後ろめたくなければ、その批判はかわせたのではないか。

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