3メガ融資先、パーム油生産大手で人権侵害 インドネシアで実態判明、ESG方針の試金石に

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メガバンクと並んで注目されるのが、公的年金を管理・運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)の動向だ。インドフードの株式は外国株の代表的な株価指数「MSCI ACWI」に組み込まれており、GPIFも同社株式を保有している。

だが、人権侵害を理由に同社株式に関しての投資方針を見直すことは簡単ではないという。GPIFによれば、「個別銘柄への投資判断をすべて外部の運用会社に委託することが法令で定められていること」などを理由に、「特定の企業を投資対象から除外することを指示できない」としている。

そのうえで一般論として、「2017年6月に定めたスチュワードシップ活動原則に基づき、運用会社が重要なESG課題であると考えるテーマについて、投資先企業と積極的にエンゲージメント(建設的な対話)することをGPIFからお願いするとともに、その取り組みを運用会社の評価項目に位置づけている」と回答している。

取引中止に動くペプシコ、不二製油

インドフードへのスタンスや働きかけの有無について明らかにしないメガバンクと対照的なのが、インドフードグループからパーム油を調達している欧米や日本の大手食品会社の動向だ。これらの企業は、取引に関する情報開示で先行するとともに、取引見直しの方針も明示している。

世界最大手食品会社のネスレは「9月をもって、商業的な理由によりインドフードとの合弁事業を打ち切ることで合意した」と発表。アメリカのペプシコも、インドフードとの食品合弁会社がインドフードのグループ企業からのパーム油の調達を2017年1月に中止していることを明らかにしている。

ペプシコはホームページ上で、インドフードのグループ企業での労働問題についてNGOがRSPOに苦情申し立てをしていることや、同社と問題の解決に向けて協議を続けてきたこと、RSPOによる認証取り消し方針を踏まえて、インドフードグループに対応を求めていることについても詳しく説明している。

日本企業で注目されるのが、不二製油グループ本社の動きだ。パーム油取り扱いで国内首位の同社は、「責任あるパーム油調達方針」を2016年3月に策定。その中で「先住民、地域住民および労働者(契約労働者、臨時労働者、移民労働者を含む)の搾取ゼロ」を公約。サプライヤーに対しても「児童労働や強制労働または奴隷労働を禁止すること」「すべての適用法令に従って(最低賃金、超過勤務、最大労働時間、福祉手当、休暇に関係する法令を含む)労働者に対して補償を提供すること」などの基準の順守を義務づけるとしている。そのうえで、2020年までに搾油工場までの完全なトレーサビリティの達成を目指す方針を策定し、調達先に法令順守の徹底を促している。

2018年5月には新たに「グリーバンスメカニズム」(苦情処理メカニズム)を策定。消費者やNGOなどからも苦情を受け付けるとともに、苦情処理の進捗状況をホームページ上で公表している。インドフードとグループ企業については、9月30日以降、取引を停止するとの方針が示されている。

その理由について、「NGOや顧客などのステークホルダーから環境や労働問題に関しての懸念が伝えられていたことから、調査やエンゲージメント(建設的な対話活動)を実施したうえで、責任あるパーム油調達方針に基づいて判断した」(山田瑶・CSR・リスクマネジメントグループ CSRチームアシスタントマネージャー)という。

このように、金融機関と食品会社とでは、取引先企業への働きかけのレベルにおいて大きく異なる。金融機関もESG方針を定めた以上、問題を起こした企業にどのような対応をしているかの説明が求められるようになっている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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