北朝鮮はなぜ「戦略兵器」の実験を行ったのか 米韓海兵隊の合同訓練が神経を逆なで

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つまり、今回の兵器実験は米韓海兵隊の合同訓練が再開されたこと、そして限定的な制裁解除にすらアメリカが応じないことへの警告と見てよさそうだ。

今回の兵器実験は、こうした警告が行きすぎたものとならないよう、限定的な内容となっている。まず、兵器を形容する言葉として「戦略的」という微妙な表現が用いられている。それに、長距離弾道ミサイルなどの実験が行われたわけでもない。この「戦略」兵器の正体は自走砲、対戦車誘導ミサイルなど、さまざまな可能性が考えられるが、これによって脅威が高まるのはアメリカというよりは、むしろ韓国だろう。

北朝鮮のメッセージはシンプル

米韓合同軍事演習に対して北朝鮮は長年、「目には目を、歯には歯を」の姿勢を貫いてきた。正恩氏は昨年春、米韓合同軍事演習が行われている最中に、朝鮮人民軍で弾道ミサイルを扱う「戦略ロケット軍」が飛距離を伸ばしたスカッドミサイル4発を発射する様子を視察している。そして今年初となる今回の兵器実験も、6月の米朝首脳会談以来、初めて行われる米韓の軍事演習にぶつける形で公表された。

来年春に予定される大規模軍事演習「キーリゾルブ」「フォールイーグル」の中止が決定されようとしているタイミングが近づいている点も頭に入れておく必要がある。

北朝鮮のメッセージはシンプルだ。北朝鮮が自主的に中止しているミサイル実験の恩恵を引き続き享受したいのであれば、トランプ大統領は来年春の大規模軍事演習を中止せよ、ということである。

今回の実験は「戦略」兵器だった。しかし、次は違うかもしれない。なにしろ北朝鮮は今年2月の軍事パレードで、まだ実験が済んでいない短距離弾道ミサイルを登場させているのだ。

もちろん当面は、北朝鮮が弾道ミサイルのような一段と挑発的な兵器の実験を繰り出してくるとは思えない。正恩氏の国際的なイメージは今年、かなりの改善を見た。正恩氏自身が恩恵を受けている。ミサイル実験を再開しない限り、北朝鮮は「対話を妨げているのは制裁緩和に応じないアメリカのほうだ」と主張し続けることができる。

しかし弾道ミサイルの実験を再開し、再び戦争の脅威をあおり始めた瞬間に、こうした有利な立場は崩れ去る。なかでも最大のリスクは、トランプ大統領が「これ以上の対話は無駄だ」との結論に至ることだろう。

そのトランプ大統領は今のところ、正体不明の兵器実験が行われたというニュースに対して、正恩氏を批判するコメントは出していない。

(執筆:アンキット・パンダ)

筆者のアンキット・パンダ氏はアメリカ科学者連盟(FAS)の非常勤シニアフェローで、国際安全保障問題の分析を専門とする。アメリカ『ディプロマット』誌のシニアエディター。
「北朝鮮ニュース」 編集部

NK news(北朝鮮ニュース)」は、北朝鮮に焦点を当てた独立した民間ニュースサービス。このサービスは2010年4月に設立され、ワシントンDC、ソウル、ロンドンにスタッフがいる。日本での翻訳・配信は東洋経済オンラインが独占的に行っている(2018年4月〜)。

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