「言葉遣い」にこだわる中年社員が危ういワケ

これから世界はどんどん「単純化」していく

先日、某国の大統領が日本人記者の英語での質問に対して、「何を言っているのかわからない(I can’t understand you.)」と一笑に付して、「それは失礼ではないか」という声が多く上がりました。似たような議論ではないかと思います(逆に「英語力の低い記者のほうが問題だ」という意見もありましたが……)。

今や英語は世界語であり、英語を母語としない人も一生懸命勉強をして、英語を話そうとしています。それに対して英語が母語であるという圧倒的に優位な立場の人が歩み寄ることなく、「あなたの言葉はわからんな」と突き放す。なまっていようが、少々言葉遣いがおかしかろうが、表現方法よりもその内容が大事であり、注意深く聞けば意味がわかるなら、そうすれば良いのではないかということです。

我々オッサン世代は若い人よりは偉くなっていることも多い。そしてその立場から「俺たちの言葉に合わせろ」と言うのは少しばかり傲慢かもしれません。

正直、腹は立つ。でも…

正直、オッサン世代である私も、若者言葉を聞いていて、つい腹が立つことはあります。ただ、後でよくよく考えてみると、敬語がない発言の意図は親近感の表れであったり、婉曲表現のないストレートなネガティブ発言は、怒らずに受け止めてくれるという信頼の証であったりという、別なメッセージ(伝えたい思い)が見えてきます。もし、表現方法だけで怒って注意をしていたら、それらのメッセージはどこかに消えてしまいます。

もちろん、メッセージ自体がダメなら注意すべきです。重要なのは、お世話になっている取引先の人を軽んじる思いを持っているのかどうかということです。「お客様に対して失礼な言葉遣いをしたらしいね」ではなく、「君はお客様に対してどんな風な思いを持っているのか」と聞くべきです。

そして、もしお客様を軽んじているなら、そのことを叱責すべきでしょう。もし、メッセージはおかしくなければ、そこはきちんと認めてあげて、ただ、相手に合わせた言葉遣いをしないと、せっかくの正しいメッセージが伝わらないよと諭してあげるべきでしょう。

グローバル化が進展し、世の中がどんどん多様化する時代において、ハイコンテクストな社会、つまり多くの共通基盤を持った人で構成する社会や組織は徐々に少なくなります。ハイコンテクストな社会では、微細な言葉遣いや服装、振る舞いなどがメッセージを多分に含みます。例えば、ネクタイをして場に臨むことが「礼儀」を表すことになります。

しかし、ネクタイにそういう意味を感じる共通基盤のないローコンテクストな社会においては、暑い最中に汗をかきながらネクタイをしている姿を見て、「なぜ、あの人は暑いのに滑稽な姿をしているのだろう(バカだな)」と思うかもしれません。

そして、おそらく世界はどんどんそんなローコンテクストな世の中になっていきます。単純化していくのです。ファッションがどんどんドレスダウンしていくように、言葉においても細やかな表現よりも、ファクトとロジックと数字、言い方よりも中身だと、シンプル化していくのです。

この流れの中、いつまでもオッサン世代の言語コンテクストにこだわっていては、「瑣末(さまつ)なことにこだわり、本質を見ない人」という烙印を押されてしまうかもしれません。

文:曽和利光/株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部教育心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネージャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。
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