日本経済の成長率は2018年になってからやや停滞している。だが、労働市場の改善は続いている。完全失業率は2018年初から2%台と1990年代前半以来の水準に低下した。また、新卒市場での内定率が近年大きく上昇するなど、労働市場の需給改善は2013年から止まっていない。
安倍政権が、2017年頃から残業規制などの「働き方改革」に臨んだ1つの理由は「制度改革に前向きに対応することが、理にかなっている」と企業側が思うようになったことが挙げられるだろう。
企業にとって、労働力という経済資源が希少になることで、従業員への配慮を強めるインセンティブが強まる。企業、政府の取り組みによって、生産性を高める働き方や労働環境の改善は、少しずつ実現しているように思われる。実際に、かつて社会問題となった労働者を使い捨てにする「ブラック企業」の問題は、メディアを通じてほとんど聞かれなくなった 。
「人手不足が経済成長を抑制しつつある」は本当か?
こうしたなか、労働市場で人手不足が強まっており「優先すべき政策は経済の供給サイドを強化することに変わりつつある」、との見方が最近増えているようにみえる。金融・財政政策によって総需要を刺激するより、供給側の強化によって経済成長の「天井」を高めることがより重要になっている、という議論である。
こうした立場にたつと、経済資源の供給制約、たとえば労働市場における人手不足などが、経済成長を抑制しているとの見立てになる。「総需要>総供給」の状態となっており、であれば総需要を刺激する金融緩和や財政政策は、ベネフィットよりもコストが大きい。しかし、2012年以前のデフレ時代と比べて、労働市場の需給が改善しているのは確かとしても、これまでの労働市場の改善によって、人手不足が日本の企業活動や経済成長を抑制しつつあるフェーズに移っているか、といえば筆者は疑問である。
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