「人手不足で企業経営が困難になっている」とのメディアなどの報道は、 2014年ころから増えていた。この時も筆者は当コラムで取り上げ、3%台まで改善した失業率にはまだ低下余地があるとの考えを述べた(「人手不足の何が問題なのか?」を参照)。
実際には、労働集約的で人件費を極力抑制することを利益の主たる源泉とする一部企業の事情が、かなりセンセーショナルに伝えられたのだろう。なお、当時、失業率が当面の下限に達したにもかかわらず金融緩和を継続することに対して、金融関係者の間では批判的な意見があったが、実際にはその後さらに失業率低下が続き、2%台になってもまだ失業率低下が続きそうな状況だ。
また、それ以降も「人手不足だ、人手不足だ」と言われ続けているが、それが企業の活動の大きな制約になっているようにはみえない。人手不足倒産が最近増えていると報じられているが、たとえば東京商工リサーチによれば2018年4~9月(上半期)の企業倒産件数は4124件。そのうち「求人難」を理由とした企業倒産は35件とわずかである。メディアを通じて伝わる一部の企業の声が、経済全体の動きを表しているわけではないということだろう。
労働の逼迫度を測る「賃金指数」の伸びは緩やか
こうした場合、労働市場全体がどの程度逼迫しているかをより正しく測る指標として、失業率などの統計に加えて、賃金の動きもあわせて判断する必要がある。残業・ボーナスなどを除く賃金指数は2015年から前年比+0.3%と小幅なプラスに転じ、2016年(+0.2%)、2017年(+0.4%)とほぼ同様の小幅な伸びだった。
2018年(1~9月時点)にこの賃金の伸びは+1.0%へと伸びが高まったが、これは調査対象の変更など統計的な要因で高めに算出されている。参考までに前年との比較が対象な事業所のベースだと、賃金(残業・ボーナスを除く)は2018年になっても+0.5%となっている。働く環境は改善しているし、労働市場の需給改善によって賃金の伸びは高まっているが、そのピッチは極めて緩やかにとどまっている。
確かに長期的にみれば、労働市場の供給制約が日本経済の成長を阻害する状況もありうるだろう。ただ、そうした状況に至る前に、労働市場のメカニズムが働くことで、賃金がはっきりと伸びる局面が訪れると筆者は考えている。そういう状況に至っていないということは、労働市場で人的資源が枯渇し経済の供給の天井に近づくまでに、かなり距離があることを示唆しているのではないか。
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